突然の幕引きについて、地方競馬関係者のあいだでは「実力者が仲介に入って“手打ち”したのでは?」「裏で脅されたんじゃないか」「いや報道の大きさに戸惑っただけだろう」などと憶測が広がっている。
山本さんがセクハラ訴訟を起こしたことは各紙で大きく報じられ、名古屋競馬場には“訴訟ネタ取材”の報道陣が押し寄せた。元所属厩舎の男性調教師を訴えることはそれほど衝撃的だった。デビュー2年目のアイドル騎手による勇気ある告発が一転、“不発”に終わったのはなぜか?
競馬関係者は「5月に転厩(厩舎を代わる)したときから、セクハラじゃないかというウワサはあったよ。きわめて特殊な男社会だし、正直言ってセクハラなど日常茶飯事。お尻を触りながら挨拶したりね。この仕事につく女の子もある程度覚悟しているから問題にならなかっただけ。それだけに訴訟に踏み切ったのは度を超えるセクハラがあったからと思っていたが、報道の大きさに本人がびっくりしちゃったんじゃないの?」と内幕を読んだ。
山本さんは24日、訴訟を取り下げる書面を名古屋地裁に提出。その理由をこう述べている。
「私の思いは、レースに乗りたい、レースに勝ちたい、もっとうまくなりたいというものです。このまま訴訟を続けることは、その思いを妨げることになるのではないかと思い始めました。訴訟に時間と労力を使うより、馬に乗ることに時間と労力を使いたい。そう思いここに訴訟を取り下げる決心をしました。決して心が折れたわけではありません。これからの自分のためです」
弁護士を雇って提訴したのだから、裁判に時間と金がかかるのは分かりきったこと。それも踏まえて決断したにもかかわらず訴えを取り下げたということは、訴訟が表ざたになったことで騒動が大きくなり、本業の騎手としてではなくセクハラ被害騎手とみられるようになったことの影響もあるだろう。
本紙の地方競馬担当記者は「山本騎手は取材への受け応えもしっかりしているし、競馬に対して真剣なんです。普段はおしゃれだし、どんどんきれいになっているからアイドル騎手ともてはやされているけど本人の心は勝負師です。まだ若いから今度のことは心配だけど、頑張ってほしい」とエールを送った。
民事訴訟法は「訴えの取り下げは相手方の同意を得なければ効力を生じない」と規定している。
男性調教師は取材に対し「地方競馬のファンや関係者に迷惑をかけたくない」と取り下げに同意する考えを示した。
山本騎手は2003年6月にこの男性調教師に弟子入り。今年9月21日、調教師にたびたび抱き付かれたり、厩舎にある調教師の住居に呼び出されて、全裸になった調教師から「おれはおまえに全部見せることができる。おまえも包み隠さず見せてみろ」と服を脱ぐよう求められたりしたなどとして、提訴していた。