会社員というものは、数日前の晦日(みそか)に「よいお年を」などという舌をかみそうな台詞(せりふ)で別れたばかりなのに、新年を迎えれば「ことしもよろしく」などと、いっそう面はゆい台詞で顔を合わせ、昼は蕎麦(そば)でもと手繰りに行くと、美寿津からはご丁寧に年賀の手ぬぐいを賜るのだった。お年賀は、それはいわずもがなの楽しみであって、身内だけでは今ひとつ祝祭性に欠ける新春を寿(ことほ)いでくれた。
昼時を避けて、恵比寿麦酒のグリーンラベルをくぴくぴ飲みながらまごまごしていると、盛りは一人前か1.5人前か、どちらなのかと問われた。う、う、そうであった。ここは蒸篭(せいろ)2枚で一人前、したがって1.5人前というのは3枚重ねでやってくる。
すっかり失念しておりました。そういえば蕎麦焼酎の蕎麦湯割りは、ここで覚えたものでした。白濁したほどよい緩さの蕎麦湯割が、寿司(すし)屋用の大ぶりの茶わんで供されるのがうれしかったものです。ただ戸の建てつけが悪くて苦労させられた。下がかならず半寸空くから冬の間中、入り口付近には誰も座ろうとはしなかった。
今日は09年4月6日の春たけなわ。盛りを手繰ったら都営浅草線で押上を目指す。目標はふたつ。隅田川墨堤の桜と、東京スカイツリーの土台見学だ。ツリーは工事開始から267日を迎えた本日早朝、塔本体の鉄骨が据えつけられた。09年の6月に50メートル、12月には200メートルに達し、11年末に完成する。高さは東京タワーの1.8倍、610メートル。開業は12年春から。日本一の高さとなる第2展望台は地上450メートルからの眺望となる。高いところ好きとしては、体調を整えてお待ちしたい。ところが土台が、これが見当たらない。現場には塀が回されているから当たり前か。
諦(あきらめ)て、墨堤へ
現在の隅田川公園は、水戸徳川家小梅邸と呼ばれていた水戸家の下屋敷。明治8(1875)年に、ここで明治天皇主宰の花見の宴がひらかれたとある。邸内には池あり、小山あり、神社あり。この神社が丑(うし)年の今年、御利益のある撫(な)で牛(石)を飼っていることで話題となった牛嶋神社。境内前で宴(うたげ)をしていたら、地元の世話ずきな大年寄りから、遠方よりはるばるきた物好きな中年寄りへ、差し入れが届けられた。懐かしんで浅草六区の映画館をたちどころに、いつつむっつ挙げた。公園が毎朝の散歩道だという。そのぼくが誓って、今日が満開の天辺だという。スカイツリーはどの方角になるか訊(たず)ねてみた。アッチ、と指差すかたは西南西。目をやれば淡い水彩の青空に、刷いたようなソメイヨシノが揺れていた。大年寄りさま、地上450メートルからの眺望を見る気満々。
予算1400円
港区新橋2-9-13