『男はつらいよ』や『平成ゴジラシリーズ』といったお正月映画の定番だった実写邦画シリーズの公開もなく、今年のお正月も寂しい思いをしていたという映画ファンはきっと多いはず。もちろん、定番シリーズ以外でも、お正月には力を入れた魅力的な映画はたくさん公開されているのですが、そういった新しい映画を楽しみながらも、定番のシリーズ物も見ておきたいという気持ちがファンにはあるもの。
まぁ、ゴジラシリーズはともかくとして『男はつらいよ』の方はもう新作を見ることは難しいでしょう。渥美清以外のキャストが演じる寅さんなんて見たくないというのが、ほとんどのファンの意見でしょうから。
では、『男はつらいよ』の寅さんに続くような、寅さんと並べても遜色のない魅力を感じられる邦画キャラクターは、もう邦画には現れないのでしょうか?
実は、寅さんに並ぶ魅力を持った邦画キャラクターが登場する映画は、すでに存在していたのです。
その映画とは『菊次郎の夏』!!
ご存じ、北野武監督による8本目の監督作品です。それまでの北野映画でビートたけしが演じていた人物はバラエティ番組に出演するたけしとは別人のような、クールで狂気的な役がほとんどでしたが、本作でたけしが演じる菊次郎という男は、バラエティ番組で見るたけしの印象にも比較的近い、ちょっと乱暴だけど実は優しく、そしてお馬鹿なおじさんです。それまでの北野映画で目立っていたバイオレンス描写などもなくなっているため、暴力描写が苦手な女性客から、それまでの作品以上の評価を受けた映画でもあります。
『男はつらいよ』の寅さんといえば、浅草の天才芸人・渥美清が演じたスーパーキャラクターです。
そして、『菊次郎の夏』に登場する菊次郎も、浅草の天才芸人であったビートたけしが演じた「喜劇映画の主人公」なのです。ビートたけし演じる喜劇映画の主人公には、渥美清演じる寅さんにも決して負けない魅力がありました。
もっともビートたけし(北野武)という監督は『男はつらいよ』のような定番のシリーズ物の映画を作るよりも、まったく新しい映画表現を追求していくタイプであったため、この『菊次郎の夏』をはじめとして、自分の監督作品をシリーズ化しようという動きを見せることはありませんでした。
もちろん、そのお陰で多くの傑作が登場することになるのですが、寅次郎に続く邦画界の喜劇キャラクターとして、菊次郎の活躍をもっともっと見てみたかったとも私は思ってしまうのでした。
それにしても、お笑い芸人が映画に出演したり、映画を監督することは多いですが、その中でも浅草出身の芸人は、映画というメディアに特に愛されているような気がしてなりません。
渥美清と、ビートたけし。この二人は日本のお笑いだけでなく、映画の世界でも主役となってしまったのですから。
(「作家・歩く雑誌」中沢健 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou