『G1クライマックス28』
Aブロック公式戦
▽10日 日本武道館 観衆 6,180人
新日本プロレス真夏の最強戦士決定戦『G1クライマックス28』Aブロックの最終戦が10日、日本武道館で行われた。
決勝進出の可能性があったのは、唯一自力の7勝1敗の棚橋弘至に、2敗のオカダ・カズチカ、ジェイ・ホワイトの3選手。ジェイは棚橋とオカダに直接対決で勝っているため、ジェイがEVILとの公式戦に勝利した時点でオカダの決勝進出は消滅してしまう。
まず、セミファイナルでジェイとEVILの試合が行われた。ジェイは今年1月に新日本マットに凱旋して以来、醸し出していた不穏な雰囲気を一気に爆発させるような暴走ファイトを展開。28年の歴史を持つG1では勢いのままノーマークの選手が優勝することもある。ジェイにも可能性があったが、G1の後につなげたいと考えるEVILの気持ちは尋常ではなかった。
今シリーズからヒールに転向したジェイに対して、約3年間パワーのあるラフファイトを続けてきたEVILは、序盤こそ手こずりながらもキャリアの差を見せた。最後はジェイがイスを振りかざしたところを、EVILがイスごとジェイをぶっ倒し3カウント。ジェイの決勝進出を阻んだ。試合後、インタビューブースに現れたジェイは「EVIL!」と絶叫して控室へ。EVILは「このリングを動かすのはあいつじゃない。この俺だ」と次期シリーズからの巻き返しを誓った。
ジェイが敗れたため、棚橋はオカダに勝つか引き分けで、オカダは勝てば決勝進出という分かりやすいシチュエーションになった。今シリーズからビジュアルを変更したオカダはタンクトップで入場。逆に今回のG1では“原点回帰”をテーマのひとつとしていた棚橋は、黒のロングタイツで登場。今年5月の福岡大会以来となるオカダとのシングル戦に臨んだ。
ゴング直後、武道館に沸き起こったのは大タナハシコール。棚橋本人は嫌がるかもしれないが、現在の新日本にとって棚橋は、ブームを再燃させた功労者のイメージが強いのではないだろうか。棚橋が尊敬する藤波辰爾が1998年、44歳でIWGPヘビー級王座に挑戦した時と似た雰囲気を感じた。
棚橋とオカダの試合は毎回、棚橋による“一点攻め”が焦点となっているが、今回、棚橋が選択したのは膝だった。ドラゴンスクリューや、テキサスクローバーホールドを繰り出しオカダを追い込んでいく。しかし、オカダもドロップキックで棚橋に傾いた流れを引き戻し、レインメーカーを狙っていくが、棚橋はスタイルズクラッシュや電光石火の首固めなどで対抗した。
試合終盤、棚橋が最高の形で決めてみせたドラゴンスープレックスをカウント2で返されると「残り試合時間1分」のアナウンス。ここから1分間はいわゆる“パス回し”をすれば棚橋が決勝進出になるのだが、オカダに勝って決勝に進出したい棚橋は、トップロープに登り必殺のハイフライフロー。これもカウント2で返され、2発目を狙いコーナーに向かったところで、時間切れ引き分けのゴング。棚橋がAブロックの決勝進出を決めた。
試合後、インタビューブースに現れたオカダはしゃがみ込むと、しばらく考えてから「すみません」とだけ口にして控室へ。一方の棚橋はファンと喜びを分かち合ってからインタビューブースへ。棚橋は「今年で17度目のG1だったけど、充実感が一番。心と技と体がそろっていた」と振り返ると、報道陣から「充実感とは何か?」と質問され「怪我で苦しんで、年に何回も欠場して『棚橋もう無理しなくていいよ』って言われて、気持ちばかり焦って。でも、そんな身体でも、俺のために一生懸命(膝を叩きながら)動こうとしてくれてる。だから一回、この体を受け入れて、できる技で、できる戦略で、今の棚橋弘至で闘えればいいんだと。だから、焦りもないし、使える技は限られるかもしれないけど、自分の思い描く戦いができている。そういう意味での充実感です」と答えた。
また武道館でのシングルマッチは初めてで不安だったようだが、「勝てなかったけど、日本武道館がとても好きになりました。トライアングルスコーピオを、仕掛けようとしたら自分の膝を痛めました…。ここ、笑うところです(笑)」と場を和ませた。「プロレスに、たくさんのファンの方が来てくれて、盛り上がってきて、すごくうれしい。けど、ちょっと『棚橋ご苦労さん』っていう空気やめてくれるかな?俺の夢はまだ続いてるから!」と語り、最後は2日後の決勝戦モードに切り替えて、控室へ続く階段に向かった。
武道館3連戦は、2日目、最終日とチケットが完売する中、初日はお盆休み前最後の日ということも影響したのか、約半分の入りで空席が目立った。ただ、武道館という箱が持つパワーがそうさせたのか、大会はとても盛り上がっていた。ただ新日本を背負って立つ棚橋とオカダにとっては、自分たちのカードで満員マークすら付かなかったのは悔しかっただろう。そんな棚橋の意地を私たちは2日後に見ることになる。
取材・文 / どら増田