『G1クライマックス28』
Bブロック公式戦
▽15日 大田区総合体育館 観衆 3,826人(満員)
Bブロックの開幕戦となったこの日は、石井智宏と矢野通のCHAOS同門対決で幕を開けた。リングアナに「日大レスリング部出身」とわざわざコールさせた矢野は、前日の前哨戦に引き続き、打撃の打ち合いなど最近ではめったに見せない“真面目な”スタイルを披露した。石井戦ではなんとフロントスープレックスまで飛び出し、日大レスリング部魂を見せつけた。
苦戦していた石井だが、真面目な中に少しずつ挟んでくる反則技や丸め込みをしのぎ、最後はレフェリーの死角をついて矢野のお株を奪う急所蹴り。そのままラ・マヒストラルで丸め込み3カウントを奪った。これにはファンも大爆笑。試合後、股間を押さえながらインタビュースペースに現れた矢野は「厳粛に受け止めます」と完敗を認めた。
IWGP US王者のジュース・ロビンソンは、バレットクラブOBのタマ・トンガと対戦。タンガ・ロアの介入もあり敗戦したが「『G1 CLIMAX』を9勝0敗で終わる選手なんて誰もいないんだ。時には勝ち、時には負ける。でも、できる限り勝数を増やしたい」と語ると「次の飯伏戦が楽しみだ」と前を向いた。
NEVER無差別級王者の後藤洋央紀は、SANADAとの接戦を制して白星発進。「SANADAはいい選手。ロス・インゴにいるのはもったいない」とSANADAの実力を高く評価した。前日も「武者震いがする」と話していたが、コンディションはかなり良さそうだ。
セミファイナルでは飯伏幸太が、ザック・セイバーJr.と、3月のニュージャパンカップで敗れて以来の再戦。前回「邪魔でしかなかった」と飯伏に言わしめたザックのセコンドには今回もTAKAみちのくがいた。TAKAみちのくはマネージャーとして、エプロンサイドからアドバイスを送るなどザックをサポートした。
今回は、前回の対戦以上にザックが関節技を決めている場面が多かった。カミゴェも3回続けて膝蹴りを合わせられてカットされるなど、ザック陣営はかなり飯伏を研究してきたようだ。前日にはTAKAが伝授したと思われるザックドライバー(形はみちのくドライバーⅡと同じ)を披露しフォール勝ちを収めていた。
飯伏はザックを「関節技だけの選手」と決めつけずに、一瞬の隙を狙っていたようだ。その隙は関節技の流れから自然に生まれた。ザックと腕の取り合いをしていたところ、飯伏がそのままザックの腕をクロスしてバックへ回り、クロスアームスープレックスホールドを狙った。これは2で返されたが、飯伏はそのまま両腕を離さず、遠心力を利用してカミゴェを決めて勝負あり。
試合後、飯伏は「結果だけで、満足はしていない。(ザックとは)またやることになると思う」と語ると「(カミゴェも)もうだいぶ研究されていると思うので、もうちょっと何かこの『G1』で出てくるんじゃないかなと。楽しみにしています。自分も追い込まれたら何か出てくると思うんで」とG1期間中に新技を披露する可能性を示唆した。
メインイベントでは、昨年の決勝カードが実現した。IWGPヘビー級王者のケニー・オメガと、昨年の優勝者・内藤哲也がいきなり激突したのだ。両者ともこの1年で、クリス・ジェリコ、そして当時IWGPヘビー級王者だったオカダ・カズチカと対戦している。ケニーはIWGPヘビー級王座奪取後の会見で、内藤を筆頭に日本人レスラーの「甘さ」を非難していた。
両者のG1での戦績も1勝1敗のイーブンというシチュエーションの中、2人対峙した。30分という試合時間を考えたのか、昨年のような序盤の探り合い(スカし合い)はなく、序盤から互いに技を惜しみなく披露するノンストップバトルになった。序盤、私は会場内を回りながら試合を見ていたのだが、ファンからは「これは決勝じゃないよね?」とか「最初からこんな試合が見られる今年のG1は凄すぎる」「いきなりベストバウト」といった称賛する声が聞かれた。プレスルームに戻ると、報道陣も2人のレベルの高い攻防にどよめいていた。完全に昨年の決勝を超えている。
最後は内藤の正調デスティーノを防ぎに防いだケニーが、変形のツームストンパイルドライバー、垂直落下式リバースタイガードライバーで、内藤の余力を消し去ると、Vトリガーから片翼の天使を炸裂させて3カウント。23分19秒という時間以上に長く感じる大激戦だった。この試合を生で観戦できたファンは幸せだったろう。
インタビュースペースに現れたケニーは「この団体のトップはこの俺様です。それは信じてます。飯伏さんは2番か、タイで私と並んで一番ですね」とアピール。「内藤さんは、3年前から偉そうなキャラをやってましたね。みんな、もう飽きちゃったですよね。目を覚ましてください!外国人ファンも飽きちゃって、日本のファンもすごい、飽きちゃってる。毎日見るからさぁ」と内藤を挑発した。
ケニーはゴキゲンな様子で話し続ける。「控室のみんな、ボーイズ、オマエのキャラクターはかなり好きじゃない。もしかしたら、クビになってほしい可能性もありますね。お前(内藤)と試合するのが好きですよ。だからさぁ〜、来年も、同じブロックか決勝戦で、お前が進化してください。もっと強い内藤さんと試合したいんですよ」と内藤に進化するよう呼びかけた。「これで、終わり。また来年、内藤。でも、『G1クライマックス』はまだほとんど残ってますよ。だから、私も精一杯頑張らないと。全部の試合を防衛戦みたいに試合するから、みんな、楽しんで見てください」と日本語でコメントした。IWGPヘビー級王者として、ベストバウトマシーンとして、務めを果たす覚悟を口にした。
今年はBブロックに激闘型選手が集中したこともあり、IWGPヘビー級王者のケニーでも苦戦する試合があるかもしれない。ただある意味、飯伏戦よりもハードルが高い内藤戦を制したことで、IWGP王者としては18年ぶり3人目、外国人選手としては初のG1優勝も見えてきたのではないだろうか。敗れた内藤にとっても今後につながる闘いだっただけに、今後の公式戦にも注目したい。
取材・文・写真 / どら増田