善良な客だけはなく、悪質な人間も多いだけに、様々なトラブルに巻き込まれる。そんなタクシー運転手が、些細なことで「殺される」事件が今年5月に発生した。
事件が発生したのは北海道苫小牧市の路上。当時69歳の運転するタクシーが目的地に到着すると、北海道新聞販売所のアルバイト配達員の男(59)が、「停車位置がズレた」などと因縁をつけ、支払いを拒否する。運転手が警察に「料金を支払ってくれない」と通報すると、男は顔面を殴って料金を支払わず逃走。
警察が現場に駆け付けると、運転手は血を流して倒れており、病院に運ばれたが帰らぬ人となってしまった。なお、死亡原因については警察の司法解剖で心疾患だったことが判明している。
容疑者は警察の取り調べに対し、「停車位置がずれていたから、金を払いたくなかった」などと供述して、自らを正当化。しかも、当初男は「廃品回収業者」と報じられ、後に新聞販売所の配達員であることが発覚。経歴を本人が誤魔化したのか、あるいはメディア側が忖度で報じなかったのかはわかっていないが、マスコミ関係者の犯罪を揉み消そうとしていると取られても致し方のない報じられ方だった。
容疑者の裁判はこれから始まるものと見られるが、1千円程度のタクシー料金を踏み倒そうと、難癖をつけるのは言語道断である。タクシーは密室である上、警察に通報したとしても速やかに駆けつけられない場所もあるため、犯罪に巻き込まれやすい。さらに、「場所がわからない」「到着が遅い」などのクレームを浴びせられることもあり、ストレスの溜まる職業だ。
自動車の運転できない高齢者などの貴重な足となっているタクシー。重要な役割を担っている割には、運転手の安全確保がなされていないイメージがある。暴力的な人間に密室で毅然とした対応を取ることは、命の危険にもつながるため、なかなか難しいと言わざるを得ない。
運転手の安全性を高めるような対策が求められる。