1959年、東京都足立区に暮らすAさん一家は両親と娘二人の4人家族。父親は長野県へ出稼ぎに出ており、母と娘の3人で暮らすことが多かったという。ある日、母親が急病で入院することになり、その入院騒ぎの最中に一番下の4歳の娘である由紀子ちゃん(仮名)が迷子になってしまった。言葉もおぼつかない由紀子ちゃんは泣きながら、足立区内を歩き回り、しばらくして男性が保護。「きっと身寄りのない子供では」と思い、世田谷区の某修道院へ行き、由紀子ちゃんを置いてそのまま行方をくらませてしまった。かわいそうに思った修道院側は彼女を引き取り、後に多摩地区の児童養護施設、そして5年後には地元の小学校へ通うようになっていた。
そのころ、由紀子ちゃんの本当の父親と母親は娘の行方を探したが、一向に見つからず半ば諦めかけていた。ところが、ある日、当時の人気の双子デュオ、こまどり姉妹の冠番組『こまどり姉妹の日曜日』を観ていたところ、テレビ画面に由紀子ちゃんそっくりの女の子が映っているのを発見。さっそく、番組の舞台となっていた養護施設へ問い合わせ、実に5年ぶりの家族再会と相成ったという。
なお、由紀子ちゃんは自分の本名を忘れており、父親の顔を見てもイマイチ思い出せない様子だったが、仲の良かった姉の名前をきっかけに幼い頃の記憶を取り戻し、完全に記憶が戻った際には5年前のようにニッコリした表情を両親に見せたという。
この日、偶然、父親がテレビを見ていなかったら、または出演シーンを見逃していたら、この奇跡の再会はなく、改めてテレビというメディアの影響力について考えさせる事件といえよう。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)