女子高校生がバンドを組み、ブルーハーツのヒット曲「リンダ リンダ リンダ」を歌うという、ユニークでポップなこの作品。ブルーハーツの曲の懐かしさとともにスクリーンいっぱいに流れる斬新なビジュアルが学生から社会人まで幅広い年齢層にうけ、見事にヒット。2005年の公開当時20代後半だった山下監督は一躍人気映画監督の仲間入りを果たした。
韓国から来た留学生・ソン(ペ・ドゥナ)の出演はまさにミラクル。『リンダ リンダ リンダ』キャスティングの際、山下監督がブルーハーツのスピリットを伝える女優を思い浮かべたのは、後に「グエムル-漢江の怪物」(ポン・ジュノ監督)や日本でも「空気人形」(是枝裕和監督)などで強烈な存在感を表す韓流スターのペ・ドゥナ。出演交渉が難しいと考えていたところ偶然映画のPRで来日が決まり、そこで交渉し主演に決まった。難航が予想される仕事に怖気づいた監督の背中を押してくれたのは、当時遠距離恋愛中の恋人だったとか。
立花恵役の香椎由宇は、オーディション当時18歳。若いのにとても落ち着いていて、すぐに出演が決定。役が決まってからギターを練習させたという。子役から活躍し、一番キャリアが長い前田亜季はなぜか一番純粋で、ドラム経験もあり山田響子役に。ベースの白河望役の関根史織は彼女が所属するバンド「Base Ball Bear」のライブを監督が実際に見に行き決定。この映画のオーディションには当時はまだ無名であったが、木村カエラや沢尻エリカも受けに来ていたという。しかし、見た目のハデさよりも山下監督独自の目線で作品イメージにピタリとあったキャストを選んだ事で『リンダ リンダ リンダ』は大成功。女子高生の青春の1ページを切り抜いたようないい作品になった。
自身の出世作の上映をしてくれた、シネセゾン渋谷には思い出いっぱいの山下敦弘監督。今や多くの映画ファンが期待する最新作は、妻夫木聡と松山ケンイチ共演の『マイ・バック・ページ』(5月28日公開)。なんと『リンダ リンダ リンダ』には当時ほぼ無名だった松山ケンイチが主人公に恋する男の子の役で少しだけ出演している。山下監督は当時の松山を「格好良いけど、強烈な青森弁でそのギャップが素敵」と思い、キャストに選んだ。『マイ・バック・ページ』では撮影現場で急に芝居に入る、いい意味でのカメレオンぶりをあらためて実感したという。(コダイユキエ)
*シネセゾン渋谷のクロージング上映は2月27日(日)まで。