長嶋氏は昨年7月に体調を崩して入院。胆石による肝機能低下で一時は危篤情報が飛び交い、死亡時の原稿の準備を進めていたメディアもあったほどだった。
しかし、懸命の治療が実り、12月に退院。とはいえ、恒例だった巨人のキャンプ視察を自粛したのをはじめ開幕前の巨人激励会など、この10カ月間、公の場に姿を見せることはなかった。
そのため、長嶋氏の元気な姿が見られるのは早くても今秋、巨人の優勝祝賀会と思われただけに、本拠地開幕戦に姿を見せると、東京ドームは騒然となった。
次女でスポーツキャスターの三奈さんに付き添われて東京ドームのバルコニーに登場した長嶋氏は、いつものダンディーな姿で手を振り、順調な回復ぶりをアピール。読売新聞グループ本社の渡邉恒雄代表取締役主筆と並び、ジャイアンツカラーのオレンジ色をしたマフラーを首からかけて観戦する姿は、全国の長嶋ファンを喜ばせた。
「サプライズ観戦と報道されていますが、長嶋さんは3月初旬から巨人の本拠地開幕戦に行く準備を進め、山口寿一オーナーにその意向を伝えていました。医師の本格的な外出許可がおりず、とても無理と思われていたのですが、『是が非でも実現したい目標である』と、室内トレーニングを続けていたのです」(スポーツ紙デスク)
「実現したい目標」――実は東京オリンピックの組織委員会が2020年東京五輪開会式の最終聖火ランナーに期待する筆頭候補こそ、長嶋氏と王貞治ソフトバンク球団会長(78)なのだ。
次の’24年パリ五輪では、野球が競技種目から除外されることが2月に決定。ショックを受けた長嶋氏は、聖火ランナーを受ける方向に舵を切ったという。
野球評論家時代には五輪へ足を運び、大会の模様をレポートした長嶋氏。’04年アテネ五輪では日本代表監督に就任したが、同年3月に脳梗塞で倒れ、本大会の指揮は中畑清氏に託した。その無念さを晴らす舞台こそ、「五輪での野球復活」と考えているからだ。
「来年7月24日の五輪開会式で、日本のスポーツ界の象徴であるONが最終聖火ランナーを務めれば、野球・ソフトボールの復活を全世界にアピールできると。急ピッチでリハビリを進めたのは、そのためです」(JOC関係者)
思い出されるのが、1996年に開かれたアトランタ五輪。最終ランナーが誰なのか、固唾を飲んで世界中の人々が見守る中、現れたのはボクシング界のスーパースター、モハメド・アリ。当時のアリはパーキンソン病で闘病中。そのアリが震える手で聖火を灯すという思わぬ演出に、スタジアムには大きなざわめきが起き、拍手に変わった。
この年は11・5差をひっくり返し、長嶋巨人がメークドラマを起こして優勝したシーズン。長嶋氏もアリの姿に感動し、奮い立った1人で、あの感動を実体験で知っているからこそ、聖火ランナーに意欲を示しているというのだ。
「長嶋さんは脳梗塞の後遺症により、右半身に麻痺が残っています。右手はズボンのポケットに入れたままですが、体力を取り戻そうと、週6日のリハビリを懸命にこなしています。まさに執念です。そんな長嶋氏が聖火ランナーを務めれば、パリ五輪は無理でも、’28年のロサンゼルス五輪での復活は期待できる」(長嶋氏と親しい放送関係者)
もう一つ、長嶋氏の聖火ランナー構想と合わせて浮上してきた目論みがある。スポーツ振興くじ「toto」の一つとして検討されてきた、プロ野球の「野球くじ」導入だ。
「野球くじ」については’15年、超党派の国会議員で作るスポーツ議員連盟から日本野球機構(NPB)に、くじの対象をプロ野球に広げることの可否を検討してほしいと要請があり、NPBは実施を協議してきた。
しかし同年10月、巨人の選手による野球賭博への関与が発覚。そのため自粛ムードが高まり、議論は立ち消えになっていた。
昨年も導入案が浮上したが、やはり巨人を中心に見送り論が強く、継続審議に。それが今季、巨人の「MO砲」丸佳浩、岡本和真選手らの活躍がプロ野球全体を牽引する形で観客動員が伸び、そこへ「長嶋氏復活」という明るいニュースが導入に拍車をかけているのだ。
「『野球人口の減少は将来に関わる問題』とプロ野球の将来を案ずる長嶋氏は、野球くじでプロ野球が受け取るお金を、スポーツ庁を通じてアマチュア球界の環境整備、強化費に使ってもらうつもり。東京五輪後の新国立競技場の運営問題もあるため、巨人は五輪組織委に貸しを作る意味でも、野球くじ導入に転じた。長嶋さんが提案し、ナベツネさんを筆頭に読売新聞グループが前面に出てプッシュすれば、球界の合意は得られる。うまくいけば、来季から実施される可能性もある」(大手広告代理店)
今季、巨人はスポーツ専門の動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」と包括提携を締結し、巨人の主催試合を同社のインターネットでライブ配信を開始した。これも、野球くじを見据えてのもの。
長嶋さんの一挙手一投足から目が離せない。