しかし、システムやトップの考えはそうであっても、実際に仕事で携わるのは日本人同士というケースは少なくない。一般的な外資系企業のイメージとは程遠い職場も存在するようだ。今回は、ある外資系企業の地方都市での支社で実際にあった、時代錯誤な“風習“が招いた悲劇を紹介したい。
一般的な日本企業で働いていたHさんは、「プライベートを充実させたい」との思いから外資系企業への転職を決めた。
しかし、初日勤務を終えたHさんを待っていたのは、部署のほぼ全員が参加するという自分の歓迎会。外資系ならプライベート優先で、歓迎会は簡単なものかと想像していただけに驚いたが、一度に顔合わせもできるメリットをシステマタイズ(組織化)されているのかと、ポジティブにとらえて参加したそうだ。
ありきたりな挨拶の後に乾杯を済ませ、盛り上がり始めた頃、「Hくん、来月の社員旅行だけど、積み立てをしていないから一括で払ってくれるかな?」と、50代のスーパーバイザーが話しかけてきたという。日程を確認すると、自分の結納の日とかち合っていたので、丁重に断りを入れると「それはめでたい! この前結婚したFくん、出番だよ!」と、謎のやり取りが始まったそうだ。
スーパーバイザーに呼ばれたFさんは「結納が終わった次の金曜日、君の彼女の顔見せパーティーを18時に開催でいいかな?」と、笑顔で聞いてきたという。Hさんが呆気にとられていると「ここはね、直近に結婚した人が次にする人のパーティーの幹事をやるんだよ」と、Fさんが会社内のルールを教えてくれた。東京で働くHさんの彼女が平日の18時に、東京から電車で2時間かかる地方都市に来ることは不可能だ。HさんはFさんに事情を説明したが、「休みでも取ってもらったら?」と返されたそうだ。
彼女にパーティーの件を伝えると、「行けない」と断られたHさんは、改めて職場でFさんたちに断りを入れた。すると、「そうですか」とそっけない返事が返ってきたという。この先に地獄が待っていた。
ルールを破ったモノへの復讐か、同部署の同僚たちからの嫌がらせが相次いだ。
まず、ロッカールームでの同部署の日本人全員からの無視が始まった。社員食堂に行くと、噂が回っていたのか、他部署の人たちも空いている席に荷物を置き、Hさんが座れないように仕掛けてきたそうだ。その後も傘立てに置いておいた傘は必ず取られ、雨の日は折り畳み傘を自分のデスクに置かざるを得なくなったという。さらに、デスク上の文房具がなくなったと思ったら、遂には彼女と愛犬の写真まで行方不明になる始末。春先には杉花粉らしき粉末がデスクに山積みにされ、くしゃみが止まらなくなるなど、陰湿なイジメが日々続いた。
同部署の日本人たちは、外国人のチーフがいる時はHさんに普通に接し、仕事には支障が出ないところで無視やイジメを続けていたそうだ。どうやら、ルールを破った者への“村八分”は、初めてのケースではないらしく、こんなところだけシステマタイズされていたようだ。
幸い、仕事で成果を出し、別の支社に移ることができたHさん。ここでは理想の外資系企業スタイルで働くことが出来ているという。同じ会社でも、場所や同僚によってはブラックな環境もホワイトな環境もあるというのは気を付けようがない。もちろん、Hさんが入社した外資系企業の中でも、この支社が特殊だったことは間違いない。とはいえ、外資系企業に魅力を感じて転職を考えている人は、中にはこんな会社もあるということを知っておいてほしい。