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【不朽の名作】あのバブル時代でなければ出来ない作品自体が長大なCM「彼女が水着にきがえたら」

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パッケージ画像です。

 アニメ『あまんちゅ』が放送中ということで、今回は、スキューバダイビングつながりで、1989年公開の『彼女が水着にきがえたら』を紹介する。

 同作はバブル時代の真っ只中にウインタースポーツの“バブル的”な楽しみ方をアピールし、好評を博した87年公開の『私をスキーに連れてって』の原作を担当した、ホイチョイ・プロダクションズ2作目の原作映画作品だ。前作のテーマがウインタースポーツだったが、同作はうってかわり夏が舞台。作品の構成は前作と同じく、バブリーな空気がそこかしこに漂う作品だ。というより、マリンスポーツということで前作よりさらに豪華主義で、おそらく当時でも浮世離れしていると感じるほどだろう。

 ストーリーはあってないようなもの。それは前作でも変わらないのだが、ただお気楽に遊んでいればいいのに、この作品では、お宝を積んで墜落した輸送機を相模湾で探すという、トレジャーハンティング要素や、お宝をつけ狙う中国マフィアっぽい組織などが出てくるので、さらにガチャガチャしたものになっている。おかけで、肝心のスキューバダイビング要素は薄くなりがち。というよりスキューバの専門的な話なんかは最初の数分しか細かく出ない。あとはただ潜っているだけで、特に説明などない。むしろ地上のシーンや海上のシーンの方がはるかに目立っており、果たしてスキューバをメインテーマにする必要はあったのだろうか? 色々な意味で中途半端になっている作品だ。

 メインキャストは原田知世がヒロインポジションの田中真理子、織田裕二がエスコート役の主人公格である吉岡文男を演じているが、前記したように、恋愛もサスペンスも、お気楽遊びの要素も全て中途半端なので、全くキャラの印象が残らない。谷啓演じる大塚や伊武雅刀演じる山口の方が目立つほどだ。

 アクションに関しては、邦画では水上で何かをするということがそもそも少ないので、新鮮には映るかもしれない。しかし、お気楽作品なのでやっぱり、中国マフィアとの水上チェイスシーンはかなり違和感がある。しかも相手は銃撃してくるし、主人公側も大塚が捕鯨用のモリを相手の船舶に発射するなど、もうめちゃくちゃだ。いや、こんな暴れたら普通なら海上保安庁くるだろこれ。

 正直、キャラもストーリー進行もスカスカで、話しの運びも意味不明な部分が多い。だが、ストーリーはどんなものか思い出せないが、「ああ水中スクーターがこれでもかと出てくるあれ」とか「水上バイクがやたら出てくるやつ」とか言った具合に、強く視覚的な印象に残るシーンというのは多い。この要素だけを見ると、この作品はよく出来ていると言ってもいいかもしれない。作品の狙いとしても、間違ってはいない。なぜなら、この作品全体が巨大なCMとも言えるからだ。

 「プロダクトプレイスメント」という広告手法がある。映画やテレビドラマの劇中において、役者の所有物や背景に実在する、商品名・企業名を登場させ宣伝するという方法だ。最近の作品でも主人公が特定の商品ばかり使っていたり、一種類の飲み物ばかり愛飲しているケースがあると思うが、それらはこの広告手法が取られている場合が多い。同作はそのプロダクトプレイスメントがかなり露骨にされている作品だ。劇中に登場するジェットスキー、水中スクーターなどの乗り物から、登場人物の持ち物に至るまで、全て広告。時に背景にまでこれでもかと商品名が映し出される。その登場頻度は2〜3分に1回のペースと言っても言い過ぎではないだろう。仮にこの登場頻度でアクション作品や、サスペンス作品に使われていたら目障りなことこの上ないが、この作品は物欲あふれるバブル期を象徴するような作品なので、自然とそれが許せてしまう。

 バブル期には、とにかく金をかけた雰囲気だけで、意味不明なCMというのが結構あったが、同作は劇中全般にわたってそういう手法をやっている。劇中歌として流れるサザンオールスターズの曲もその気分をより煽る。特に劇中に頻繁に登場している水上バイクでのチェイスシーンなど、最後に商品名が出てもおかしくないくらいCM感が強く、水上バイクを「どうだ、格好いいだろ!」と言わんばかりに見せている。冒頭、なんの脈絡もなく民間用ヘリコプターの「ロビンソン R22」に乗って、田中美佐子演じる高橋裕子が登場するシーンもかなり派手で宣伝効果としてはバッチリだろう。当時はヘリをホイホイ買えた人がどれくらいいたかは知らないが。

 レジャー用の乗り物だけではなく、主要登場人物が乗る乗用車もねっとりと、必ずメーカーのロゴが映し出される。他にもショルダーホン(当時の携帯電話)や携帯テレビなど、最新アイテムの数々が登場し「買わないと置いて行かれるぞ!」と脅迫するかのようにアピールされる。

 この作品ではバブル時代の模範的な“イケてる”生活の風景を映しているという前提があるので、多量の商品広告が違和感なく、イケてるアイテムの描写として、すんなりと入ってくる。今となっては劇中のような浮かれっぷりは別世界の出来事のようだ。もはや時代劇を観ているような気分。作品内容的にはかなり微妙な部類だが、広告映画としてかなりの傑作と言っていいだろう。あの空気感は、おそらくあの時代でなければ出来ない。今では、当時を知る上で貴重な一作ではある。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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