前回のラストで母親の水沢麗子(萬田久子)が自分を捨てる理由になった人物が桜庭美男(瀧本美織)の父親であったことを知った桂木廉(玉森裕太)は「お前の顔は見たくない」と言い放つ。しかし、この廉の言動は一方的であり、狭量である。美男の父親が麗子を誘惑するなど美男の父親側に責任があるとは決まっていないためである。
美男を悲しませる廉を見て、藤城柊(藤ヶ谷太輔)が再び美男にアプローチしたことも自然である。柊は韓国オリジナル版以上にダークな恋敵を演じたが、最後は廉を後押しする好漢になった。同じく恋敵の本郷勇気(八乙女光)も、廉の隠れた美点と、その美点が美男によよって引き出されたことを認める応援者になった。A.N.JELLの絆の深さを示す心温まる展開である。
廉とNANA(小嶋陽菜)の関係にも決着がつき、スキャンダルを追うパパラッチ記者集団の問題も解決する。美男加入後のA.N.JELLのゴタゴタに不信感を抱く事務所社長の安藤弘(高嶋政伸)の問題が残っているものの、最終回に向けて美男と廉のカップルの成否にストーリーが絞られた。
廉は美男を拒絶したものの、麗子から美男の母親の写真を受け取り、美子に渡す。「ずっと母親を待ち続けていた」という美男の気持ちを思っての行動である。独り善がりな善意の押しつけではなく、相手の気持ちを思う優しさがあってこそ恋愛ドラマの主人公にふさわしい。
しかし、それならば「お前の顔は見たくない」との発言は、あまりに短慮である。廉はドラマ序盤でも美男に対し、「絶対に許さない」とまで断言しておきながら、すぐに撤回する結果となった。その時その時の気持ちを正直に発言しているからドラマになるという見方も成り立つが、一貫性のなさは廉のカリスマ性を損ない、安っぽい人物にしてしまう。
その廉が自分から空港まで美男を迎えに行き、麗子の件を謝罪した。これは大きな進歩であったが、「相手と一緒にいると親のことを思い出してしまう」という廉が美男に言ったものと同じ言葉で拒絶されてしまう。自己の短慮が因果応報となった形である。この状況を廉がどのように立て直すのか、最終回から目が離せない。
(林田力)