球界OBたちはあきれ顔だ。「胃潰瘍で開幕からしばらく戦線離脱したから、WBCの肉体的、精神的な疲れが取れて、今、最高のシーズンになろうとしている。最後の最後でのひと振りで勝負を決めた、2大会連続のWBC世界一に始まり、4月には張本勲氏の持つ通算最多安打日本記録(3085本)も超えた。これで首位打者まで獲得し、9年連続のシーズン200本安打のメジャー記録を達成したら、万々歳だろう。勝負の神様がイチローにだけえこひいきしているんじゃないか」と。
マリナーズ内部での立場も神風が吹いて一変している。昨年はチーム内で孤立無援。「イチローのような自分のことしか考えない利己的なヤツがいるから勝てない。マリナーズが優勝するためには、イチローをトレードに出すしかない」とチームメートから疫病神扱いされ、地元シアトルのメディアもイチローのトレード情報を書き立てたものだ。
「イチローの身勝手さに激怒したチームメートがイチローを襲撃する計画を立てている」という信じられない衝撃的な情報まで流れたほどだ。それが今やイチローを巡る不穏な話など、どこからも聞こえてこない。
「今季から日系人のワカマツ監督になったことがすべてでしょう。イチローに敬意を表して、対話路線を敷いている。そして、イチローのバッターとしての偉大さ、素晴らしさをナインに説いている。ワカマツ監督の全面的なバックアップがあったから、チームから完全に浮いていたイチローが逆に中心選手として認知されるようになった」と地元シアトルのメディアは伝えているという。
鈴木一朗という名前も平凡な選手が、日本人メジャーリーガーの頂点に立つスーパースターになれたのは、監督との出会いからだ。オリックス時代に才能を見抜き、イチローという名前を付けてくれた仰木彬監督(故人)。イチローの生みの親だ。
ポスティングでマリナーズ入りしたときのピネラ監督もそうだ。激情家で厳格主義者だが、「イチローを高く評価して実力を発揮させた。ピネラ監督でなかったら、メジャーリーガー・イチローがあれほど順調なスタートを切れたかどうか分からなかっただろう。メジャーリーグの監督の中には、日本人に偏見を持つ人種差別主義者もいるからね」。メジャーリーグ・ウオッチャーはピネラ監督との出会いの幸運を語る。
仰木監督、ピネラ監督、そしてワカマツ監督。節目、節目で運命的な出会いだ。オリックス時代は宇宙人とも呼ばれたこともある、天才扱いのイチローだが、成功を収められたのはもって生まれた才能のおかげだけではない。「打撃の神様」の川上哲治氏。「神様・仏様・稲尾様」の稲尾和久氏(故人)。この2人に続くイチローはコメントも神懸かり的になっている。