奈良県警奈良署は8月18日、24年前に別れた妻子に会いに行くため、岡山市内で自転車を盗んだとして、窃盗の疑いで自称住所不定、無職・松原正平容疑者(75)を逮捕した。
松原容疑者は、岡山市から、かつて住んでいた奈良・大和郡山市まで、約210キロもの距離を自転車で移動。「6月で75歳になり、いつ死ぬか分からない。離婚した妻と長男、長女の顔を見たくて自転車を盗み、走ってきたが会えなかった」と供述している。
逮捕容疑は、13日午前7時〜午後7時頃、岡山市北区のマンションに居住する大学3年の男性(20)の無施錠だった自転車(時価4000円相当、26インチ)を、同住宅の駐輪場から盗んだ疑い。
同署によると、松原容疑者は、13日に岡山市を盗んだ自転車で出発。公園などで野宿をしながら、17日に大和郡山市にあるかつての自宅(公営住宅)へたどり着いた。しかし、妻子は既に転居しており、「住んでいたのが別人で、妻子の行方は『知らない』と言われた。妻子に会えなくてガッカリした」と説明。訪ねる前には、近くの公園のトイレで、ボサボサの髪の毛を剃り、身だしなみも整えていた。最近はホームレス生活を続けていたという。
同日午後10時頃、松原容疑者は「悔いはない。自転車を盗んだのは犯罪」として、JR奈良駅前の交番に出頭した。松原容疑者はランニングシャツ姿で、全身真っ黒に日焼けしており、「シャツをちょっと絞っただけで、大量の汗が出る」と話していたという。かばんの中には、所持金120円と清潔なポロシャツ、石けんなどの洗面用具が入っていた。特に持病があるわけではないが、同署の調べに「年を取って死を意識した」と供述しているという。
せめて、元妻子への連絡手段を知っていれば、こんな犯罪に結びつくことはなかっただろう。それを思うと、胸が痛くなる事件である。
(蔵元英二)