『週刊漫画ゴラク』で連載中の『白竜』(天王寺大原作、渡辺みちお画)は、構成員わずか数十人の弱小組織・黒須組の若頭・白竜こと白川竜也を主人公とした作品である。話の中心は暴力団のシノギである。現実に起きた事件を下敷きにすることが多く、劇画的な意味でのリアリティがある。
相手の弱みを握り、脅しによって法外な金を引き出すシノギばかりであるが、原則として脅しの対象は不正を働く大企業の経営者など悪人である。そのために白竜は決して正義ではないが、悪人の破滅が観られる点で勧善懲悪物を読むような爽快感が味わえる。
ヤクザ漫画といえばヤクザ映画と同じく、組織間の抗争を想起しがちである。しかし、暴対法施行など暴力団を取り巻く環境は厳しい。無制限のドンパチは非現実的である。シノギを中心テーマとしたことで、ヤクザ漫画における独自の地位を築いている。最新刊の第14巻に収録された「ヤクザと恋とピアノ」では、任侠や義理人情という美化された言葉とは異なるヤクザの行動原理を描いた。
『週刊漫画サンデー』で連載中の『静かなるドン』(新田たつお)は、昼は下着デザイナーで広域暴力団の三代目組長を主人公とした長寿作品である。主人公の会社生活や恋愛など、ヤクザ漫画以外の要素も楽しめる。シリアスな『白竜』とは対照的にギャグの要素も強い。
この作品では組織間の抗争も多かったが、最新刊の第96巻では世界経済を支配する世界皇帝・リチャード・ドレイク5世が登場する。ロックフェラー家とロスチャイルド家にまつわる陰謀論を髣髴とさせる筋書きで、スケールが大きくなった。
これはリアリティに欠けるが、抗争を続けるヤクザ漫画の一つの方向性である。抗争に勝利する度に主人公たちの組織は強大になり、並の組織では敵として物足りなくなる。そのためにヤクザ以上の強力な敵が必要になる。実際、盃による血縁関係の描写に定評があった木内一雅原作、渡辺潤画の『代紋TAKE2』も、最後の抗争は東京を壊滅させた傭兵部隊との戦いであった。
コンビニコミックでは、現実のヤクザの伝記的な作品が多数刊行されている。単純にヤクザのリアリティを追求したいならば本物には適わない。『白竜』と『静かなるドン』は、フィクションとしてのヤクザ漫画の方向性をそれぞれ示している。
(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者 林田力)