ところが、いつまで経ってもその軽自動車は留まったままで、その日の夕方になっても置きっ放しの状態だった。しかも、車内を覗くと、なぜか運転席と助手席のシートが両方とも後ろに倒され、まるで後部座席が隠されるような形になっていた。
不審に思った管理人は警察に通報。その苦情を受けた仙台南署が、ナンバーから市内宮城野区に住む持ち主を割り出して連絡した。
そして午後8時頃、警察からの連絡を受けてやって来たのは、31歳の男性Aさん。彼はクルマを見るなり、「家内の乗っているものです」と認めた。そして、彼の立会いのもとドアを開け、前のシートを戻して車内を確認した。
すると後部座席には、Aさんの妻で市内のスーパーに勤める近江由紀子さん(27)が、遺体となって発見された。
由紀子さんは14日木曜日の夜9時半頃、勤め先のスーパーでタイムカードを押して10時頃に退社した。いつもはその頃になると、由紀子さんは帰宅を告げる携帯メールをAさんに送信するのが日課となっていた。
ところが、その日に限ってメールが届かなかった。不審に思ったAさんが由紀子さんの携帯に電話してみたところ、呼び出し音は鳴るものの電話には出ない。
そこで何度も電話してみたが結果は同じで、日付が変わる15日午前0時頃には、「電源が入っていないか、電波の届かない場所…」というメッセージが流れるだけになってしまった。
そして、行方不明になってからほぼ1日経った15日夜に、由紀子さんは遺体となって発見されたわけである。
遺体は全裸で、後部座席に仰向けの形で倒れていた。遺体の上には衣服がかけられていたが、彼女が身に着けていたTシャツや七分丈のジーパンなどは車内に無造作に投げ捨てられていた。
さらに、遺体の顔面にはひどく殴られたような傷があった。それも、かなり目立つあざが残るものがいくつもあり、相当に強い力で何度も殴りつけられたものであると推測された。
これらの状況や遺体の状態から、仙台南署は事件性が高いと判断。ただちに捜査を開始した。
当初は暴行目的の犯行と思われたが、やがて意外な容疑者が逮捕されることとなった。
(つづく)