search
とじる
トップ > 社会 > 世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第252回 プライマリーバランスという毒針

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第252回 プライマリーバランスという毒針

 2017年12月12日、筆者は西田昌司参議院議員、藤井聡内閣官房参与と共に首相公邸に招かれ、安倍晋三内閣総理大臣と会食する機会を持った。筆者は本連載にてたびたび取り上げた著作『財務省が日本を滅ぼす』(小学館)を総理に進呈。日本経済の喉元に刺さった「毒針」であるプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)黒字化目標を中心に、日本の「財政」について突っ込んだ議論を交わした。

 もちろん、総理との議論の内容についてすべてを明らかにすることはできないが、重要なポイントを書いておくと、
 (1)『財務省が日本を滅ぼす』を書いた三橋との会食について「クローズではなく、オープンで」と決めたのは官邸(オープンであるため総理動静にも載った)。官邸が望んで「公開」したのである。
 (2)日本国の「経世済民」のために政策を推進しようとしても、すべてPB黒字化目標が「壁」となり何もできないという現実を総理は認識している。
 (3)だからと言って、
 「総理はPB黒字化目標が問題であることは分かっている。ならば大丈夫だ」
 などと思ってはいけない――の3つになる。

 特に重要なのは(3)だ。総理が真実、PB黒字化目標が日本経済に突き刺さった毒針である事実を理解していたとして、だからと言って現行の緊縮路線が転換されるわけではない。
 財務省主権国家「日本」をなめてはいけない。現在の日本を財政拡大に転換させるのは、たとえ筆者が総理大臣の席に座っていたとしても無理だ。なぜならば「政治家」「世論」「空気」が緊縮歓迎になってしまっているためである。過去に膨大な時間、コストを費やし、財務省の「国の借金で破綻する」プロパガンダが展開され、多いに成功を収めているのだ。

 現在の日本において、政治家が財政政策の拡大、例えば、交通インフラの整備を主張すると、途端に「国の借金で破綻する!」「放漫財政だ!」「無駄遣いするな!」「また公共事業のバラマキか!」と、陳腐なレトリックで攻撃され、国民の支持をかえって失うことになる。安倍総理大臣にしても例外ではない。
 現在の日本国内には「財政拡大はいけない」という空気が満ち満ち、国民を豊かにし、デフレ脱却をもたらす財政政策を妨害する。この空気こそが、財務省のPB黒字化目標に正当性を与えてしまっているのだ。空気を変えるためには、やはり「言論」を動かさなければならない。特に、緊縮路線を進み続ける安倍政権を、「正論」に基づき批判しなければならないのだ。

 率直に書くが、安倍政権の支持者たちこそが(筆者は違うが)、むしろ積極的に安倍政権の緊縮路線を攻撃するべきだ。何しろ政治とは安倍総理本人が語った通り、「結果」がすべてなのである。そして、安倍政権の「結果」は、緊縮路線の継続だ。
 「安倍総理は、財政拡大が必要だと理解している。素晴らしい」
 などと総理を褒めたたえたところで、結果的に緊縮路線が継続するならば、わが国は「亡国」に至る。

 筆者が総理と会食した同日、'18年度の与党税制改正大綱の原案が明らかになった。所得税改革として、年収850万円超の会社員は所得控除が縮小され、増税だ。
 財務省は、
 「多様化する働き方に対応するため、誰もが使える基礎控除を増やし、高所得の会社員向けの給与所得控除を減らす」
 と、説明しているが、全体としては1000億円近い「増税」になる。
 もちろん、高所得者層に増税することは現在の日本にとって必ずしも間違っているとは言えない。とはいえ、それは高所得者への増税を財源に、低所得者層の負担を軽くする再分配政策があってこその話である。現在の日本政府は増税で国民の所得を巻き上げ、負債返済に充てるという最悪の路線を採っている。確かに負債返済によりPBの赤字は縮小するが、その分、日本国民が「貧困化」していく。

 日本政府は第二次安倍政権が発足した'12年以降、PB赤字を激しく縮小させた。'11年に44.7兆円だったPB赤字は、'15年には18.6兆円。何と26兆円もの縮小だ。安倍政権の過激なPB赤字縮小がなければ、わが国の需要(GDP)は少なくとも5%超大きくなっていたはずで、とっくにデフレ脱却を果たしていただろう。
 しかも、10月の総選挙の際には「所得税改革」の「し」の字も出てこなかった(消費税の議論はあったが)。選挙が終わった途端に当たり前のように「所得税改革」が推進され、増税が決まる。
 所得税増税に加えて、出国税(観光促進税)、たばこ増税と、次から次への増税路線。さらには診療報酬、介護報酬の同時引き下げの推進。これが安倍政権の「結果」なのだ。
 何しろ、PB黒字化目標という「毒針」を抜くことができていない。高齢化により社会保障支出が増加する以上、'19年の消費税増税、さらには所得税等の増税、社会保険料の引き上げ、診療報酬・介護報酬の削減、公共投資削減、防衛費や科学技術予算、教育予算、食料関係費等の抑制は「既定路線」なのである。

 例えば、総理との会食において「農業問題」でも議論し、少なくとも、
 「日本のコメ等を輸出し、食料生産能力を維持するには、輸出補助金(アメリカのように)を付けなければならない」
 という点は一致を見たのだが、結論は、
 「とはいえ、PB黒字化目標があるから、できない」
 というのである。

 すなわち、日本国の行く末は「PB目標を破棄できるか否か」に絞られている。最低でも、'18年6月の閣議決定の際にPB目標を破棄できなければ、話にならない(それが実現したとしても、予算に反映されるのは'19年度からなのだが)。
 PB黒字化目標という「毒針」を抜くためには、世論や政治家の空気を「財政拡大」「反緊縮財政」の方に動かさなければならない。さもなければ、誰が総理大臣であってもPB目標破棄は不可能なのが現実の日本なのだ。

 今回『財務省が日本を滅ぼす』の著者である筆者が総理と会食し、「PB黒字化目標が問題」という点について合意を見たことは、政治的に影響する可能性がある。とはいえ、筆者と総理が合意したところで、世論や多くの政治家が変わらなければ、このまま亡国まっしぐらというのが日本の現実なのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

社会→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

社会→

もっと見る→

注目タグ