長すぎる脛(すね)を器用に折りたたんで、モジリアニの描くモンパルナスの画学生さながらに、世間を斜(しゃ)に構えて渡っている焼き物担当のご亭主(違ってたらごめん)は、聞けば三代目だという。居酒屋も、子や縁者へ代々続くこともあるし、一代で店を閉じることもある。優勝が前者で、劣敗が後者とはいいきれない。
うちはこれです、タマネギですと、右斜め上45度から声がした。不慣れな客の卓にトンと煮込みを置きながら、タマネギのぶつ切りを薬味とする食べ方を説明する若い衆が爽(さわ)やかだ。煮込みは半分量もあり、半額(230円)であることも知る。この青年は、まことに青年らしい青年だ。青年は古参のアルバイトで、三代目の娘に慕われている大正大学の苦学生だ(違ってたらごめん)。娘は、苦学生もアタシのことをまんざらではなく思っていることを、知っている。だから後継者問題を前向きに考えてもいいと、先日父親に伝えたばかりだ(違ってたらごめん)。
地酒滝野川をそう言う。アブラゲの串刺しをそう言う。ヤキトンをそう言う。恵比寿麦酒の大瓶が600円で、キリンのプレミアムを590円と値づけしているのは、業界4位(沖縄オリオンビールが5位)に敗退してもなお、キリンよりサッポロを愛してやまぬ特約店のプライドの成せるわざなのだろう(違ってたらごめん)。
まだ業界3位であった西暦2000年、山崎努氏(俳優)と豊川悦司氏(俳優)が浴衣姿で温泉卓球の空中戦を繰り広げる、サッポロ黒ラベルの度肝ぬくTVCMは凄かった。みんな、なんのCMか覚えていられないほど凄かった。いまでも三船敏郎氏(俳優)の声が耳に残る「男は黙ってサッポロビール」はCM史に残る傑作だし、「ミュンヘン、サッポロ、ミルウォーキー」と地球の緯度で都市を並べたアイデアも粋だったなあ。
どおれ、池袋西武の前を通って目白に出るか。西武デパートも、ウディ・アレン(俳優・監督)にドテラを着せて、毛筆で「おいしい生活」(コピー糸井重里)なんて書初めをさせていたころが華だったな。金曜日にはワインを買って、いたころだな。
追想、追憶、追悼、追弔、回顧、自省、妄想、妄念などに浸りたい場合、これ以上似合う店を知らない。
予算2000円
東京都北区滝野川7-47-1