落合博満GMが監督だったころ、その右腕でもあった同コーチはキャンプ、オープン戦中、現有投手陣を見極め、「期待値ゼロ」で先発ローテーション入りを予定している投手6人の勝ち星を客観的に計算し、優勝ラインに届かない分を救援投手で補う戦略を立てていたという。中日は首位争いに残れなかったが、福谷浩司が72試合、又吉克樹が67試合、祖父江大輔が54試合に投げている。落合時代の強い中日は救援投手陣が充実していた。チーム最多セーブは今季も岩瀬仁紀だったが、その岩瀬が戦線を離脱した8月以降、福谷が代役を務め、11セーブを挙げた。福谷、又吉、祖父江、田島慎二らを中心とした新たな中継ぎ陣で90ホールドを稼いでおり、“逆襲の礎”を築いた1年とも言えるだろう。
補強の最優先事項は『先発投手』ということになるが、ドラフト会議以降、中日内部から不安の声は全く聞かれない。
「ドラフト前日、1位候補を野村と浜田の2人に絞りました。両投手の競合を覚悟していたのに、1位候補の2人を両方獲得できたのは大きい」(関係者)
ドラフト会議では、落合GMのカラーが色濃く出たとされている。とくに、1位の野村亮介投手(21=三菱日立パワーシステムズ)は落合GM自らが見極めという。2位の浜田博智(22=九州産業大)も国際大会で好投している。この2人の先発ローテーション入りは確実だが、意外と(?)評価が高いのが8位の山本雅士(20=独立L・徳島)である。
「ボールが重い。スピードガンでは140キロ台後半だが、タイミングが取りづらいというか、実戦的な投球ができる」(他球団・中国四国担当スカウト)
『実戦的な投球』とは、対戦打者の胸元や低めを攻めて来るという意味。「球種が少ない」とのことで指名を見送ったチームもあったそうだが、中日投手陣は速球派タイプが少なくなっただけに“働き場所”は十分にありそうだ。
野手陣も再整備しなければならない。
中日はレギュラーの高齢化と若手・中堅の『伸び悩み』が指摘されて久しいが、改めて見てみると、高橋周平(20)は61試合、谷哲也(29)は59試合、松井佑介(27)は52試合に出ている。2014年は和田一浩(42)の故障離脱、荒木雅博(37)の出遅れなどで中堅・若手にもチャンスはあったが、それを掴みきれなかったと見るべきだろう。落合GMが外野手・友永翔太(23=日本通運/3位)、内野手・石川駿(24=JX-ENEOS/4位)、同・遠藤一星(25=東京ガス)と、容赦なく松井たちと同じ年代の野手を指名したのは「世代交代」が進まないことへのジレンマと『喝』だったのだろう。
チーム打率2割5分8厘は、リーグ4位。総得点570は同5位、87本塁打は同ワースト。打線に『破壊力』がない…。ただ、13年はチーム打率2割4分5厘(同ワースト)、総得点526得点(同ワースト)、111本塁打(同4位)という数字だった。打率と得点は「前年比で微増した」が、規定打席数に到達したのは、大島洋平(29)、ルナ(34)、森野将彦(36)、平田良介(26)、荒木の5人。“現有戦力”が頑張っただけなので、「新戦力が出てきた」という期待には繋がらなかった。和田が長期離脱したように、チームを支えているレギュラー、ベテランに何か起きた場合、欠場した選手の分だけ攻撃力が落ちるという図式にある。
契約更改でモメた大島、平田のモチベーションがちょっと気になる。ルナ、エルナンデス(32)の優良外国人選手には15年も打ってもらわなければならないが、2人は守備面での不安を抱えている。ルナはリーグ2位タイの14失策、エルナンデスは11失策(同8位タイ)。チーム全体の失策数が『75』。攻撃力で外すことのできない外国人選手2人がチーム全体の約34%を作った計算になる。谷繁元信・兼任監督にすれば、森ヘッドによる継投策で逃げ切り体制に入った際、両外国人選手を守備力の高い若手と交代させたいのではないだろうか。その谷繁兼任監督から正捕手の地位を奪う捕手も現れなかった。終わってみれば、もっともマスクを被ったのは87試合の谷繁であり、ドラフト5位の捕手・加藤匠馬(22=青学大)を期待しなければならなくなった。
中日は潜在能力の高い中堅、若手が多いとされている。しかし、レギュラーの地位は与えられるものではなく、奪うものである。そんなプロの世界の鉄則に従い、チャンスを生かしきれなかった若手に対し、落合GMは彼らと同年代の『社会人野球の新人選手』をぶつけ、さらに厳しいサバイバルレースをさせようとしているようだ。