また、シーズン終了と同時に、古巣・広島東洋カープから帰還要請が送られた。こちらもかなり悩んだが、最後は広島側が黒田の背中を押した。黒田の「4年間のアメリカへの恩義、所属チームの優勝に貢献したい」との思いが伝わってきたからである。
昨年、黒田は1年間、ローテーションを守ってみせた。5回の責任イニングを果たせなかったのは32試合中、「たった1回」。クオリティースタート(先発投手が6回を投げ、3失点以内に抑える)の数は「22」(リーグ11位タイ)。防御率3.07もリーグ9位という安定した成績を残した。13勝16敗と、勝ち星に恵まれなかったのは、ドジャース打線の援護がなかったことに尽きる。「運の無さ」をとくに象徴していたのが、6月。5試合に先発し、全て「自責点2」以内に抑えてみせたが、0勝4敗…。ヤンキース等からトレードの申し込みが殺到したのはその直後であり、「それでもドジャースに残る」と言ったのだから、彼のメンタリティーは立派である。
新たに1年契約を交わしたヤンキースは、打撃のチームでもある。昨季並みの投球ができれば、最多勝のタイトル奪取も決して夢ではないだろう。しかし、黒田はドジャースでの過去4年間を指して、「登板の度に緊張感で逃げ出したくなった。腹痛を患ったことも…」とこぼしていた。意外だが、黒田は相当なプレッシャー(ストレス)を感じながら、投げ抜いてきたのだ。
ニューヨークの野球ファンが手厳しいのは、今さら説明するまでもないだろう。仮に黒田が好スタートを切れず、その洗礼を浴びた場合、精神的に打ちのめされてしまうかもしれない…。
しかし、プラス材料は他にもある。防御率だけ見れば、黒田は年を重ねるごとにアップしている。在籍年数が違うので一概には比較できないが、4年間の通算防御率『3.45』は、野茂英雄の4.24、松坂大輔の4.25に大差を付けている。黒田はもっとも安定した日本人投手とも言えるのだ。
「ヤンキースは黒田の『守備の巧さ』にも一目置いています。昨季も『ゴールドグラブ賞』の最終選考にも残っており、勝敗以外の投手タイトルを獲得する可能性もあると思います」(米国メディア陣の1人)
ダルビッシュにばかり注目が集まっているが、得点能力の高いヤンキースに移籍したことで、今季は黒田が再ブレークするかもしれない。
※メジャーリーグの選手、監督首脳陣等のカタカナ表記は、ベースボールマガジン社刊『週刊ベースボール』(2012年2月13・20日号)を参考にいたしました。