昔ばなしで恐縮だが、外競りは不利という時代が長く続いた。目標の先行は通常2コーナーからダッシュをかけるから、インの方が付けやすいこともあった。イン斬りなんてまさにそうで「イン絶対有利」の時代の戦法だった。
だが、うまいマーク型は外で並走の時には前の車輪を先行の後輪に引っかけて競りあう。こうするとインの選手が外に飛ばしにきても、先行選手の後輪がじゃまになって思い切った振り方が出来ない。無理をすると先行の後輪に当たって落車したりする。
インの選手は先行の後輪の内側に差し込んで周回する。こうすると、外の選手はインを強引に叩き込めない。
うまいマーク屋同士の競りはそれを見ているだけで芸術鑑賞だった。踏み出しが勝負だから、どちらにダッシュがあるかが勝負の分かれ目になる。競りのきつい追い込み屋はなかにはヒジで相手をキックしたりしたが、これは瞬間的だからファンはもちろん、審判にもわからない。
「相手を落とそうと思えばいくらでも手はあるよ。相手が下手なら前輪のタイヤをこすってやればいい。なれていない選手はそれだけでびびってしまう。外で勝つにはキックとか、小指一本で相手のハンドルを押してやることも効果的だ」という話を追い込み専門の選手から聞いたことがある。
もちろん、これはタイミングが難しいから、よほどハンドルさばきが良くないと難しいし、今は結構周回タイムがあがっているから、小技は使えないだろう。
それで一時はやったのが外の選手のヘッドパンチだ。いまも評論家で活躍している工藤元司郎なんか、これで売り出したようなもの。
もう何年前になるか忘れたが、工藤と当時マーク屋では有名だった島野光彰(奈良)が花月園で競ったときはすごかった。工藤のヘッドパンチが何発島野のヘルメットに当たったろうか。
印象的だったのは、競り負けた島野は一発もお返しをしなかったことだ。フェアな選手だったという印象が強い。レースを離れて島野と接してみたが、おとなしい感じの人だった。
「競りは踏み出し勝負」という追い込み選手の鉄則を守っていたのだろう。
工藤のヘッドパンチは有名になり、競ってくる選手はいなくなった。「あいつはクレージー」という名を広めるのも番手狙いの追い込みには必要だった時代の話だ。