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【不朽の名作】エンタメ的不良の理想像がちりばめられている「湘南爆走族」

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パッケージ画像です。

 元々、本項「不朽の名作」では主に1980〜90年代に公開された作品を扱うというコンセプトで始まった。が、その時代を世間的に彩ったもので今まで扱ってきていないものがあった。それはヤンキー文化だ。という訳で今回の作品はこれ! 『湘南爆走族』(1987年公開)だ。

 原作は吉田聡による同名の暴走族漫画で、暴力やシリアス描写はありつつも、比較的破天荒なギャグテイストの強い作品という位置づけになっている。映画でもその要素は意識しているが、所々で真面目になっている部分も多い。とはいっても江口洋助役の江口洋介や、石川晃役の織田裕二がリーゼント姿で登場しているというだけで、今となってはありえない絵面なのでかなりのインパクトだ。しかも織田は同作がデビュー作というオマケつきだ。他にも杉本彩(桃山マコ役)・清水美砂(津山よし子役)・竹内力(城崎挺士役)など当時若手だった役者たちが体当たりで同作に挑んでおり、かなり印象的な作品となっている。

 同作の大きな特徴は、不良たちの描写を、やりたいことをやっているはみ出し者とはとらえているが、基本的に悪人ではないことを強調している部分にある。冒頭は江口が2代目リーダーを務める湘南爆走族(湘爆)メンバーのバイト風景から始まり、バイクで走りに行くのにも金がないとボヤく場面が印象的だ。カツアゲなどもっての他なのだ。チームはわずか5人、ヤンチャはしているが普段は学校をサボる以外はすごく良い人。でもケンカを売られた場合はめっぽう強い。しかも女には奥手で硬派という、ある意味、ヤンキーの理想像が原作同様に詰め込まれている。

 基本的に湘爆の面々は、江口を始めとして、「ケンカをするよりは、ちょっと法には触れるが、楽しく走っていただけ」という考えがあるため、ケンカや縄張り争いの描写は全て、相手に巻き込まれる形で始まる。そのあたりが不良でありながらどこか憎めない部分となっており、娯楽作品としての質を高くしている。キャラの再現度としては特に江口の紫リーゼントが似合ってないなど、色々思うところはあるかもしれないが、話の流れとしては、クライマックスに大人数でのケンカ描写や、チキンレースを持ってくるなど、ヤンキー作品として、王道を押さえている。しかもコメディー要素も原作ほど破天荒ではないが、寄せている部分も多いので、マンガ原作の実写化としてはかなり成功した部類なのではないだろうか。

 今風に言うと「オラついている」感じがないのも、キャラに好感が持てる点だ。最近のヤンキーモノは、方々に威勢を張る描写が多く、その点で敬遠されがちだが、湘爆の面々にはそういった要素が一切ない。ちょっと強面くらいに収まっている。仲間5人で集まって、一杯のラーメンを分け合う内にケンカに発展する描写や、金欠に悩み、チームを「アドベンチャー茶道部」と言い張り学校に予算を求めるアホみたいなギャグ描写も、湘爆のメンバーを憎めない存在としている。かわりに、対立していくことになる、城崎率いる横浜御伽(おとぎ)の面々が現代風の不良で、大人数でたむろし、湘爆に憧れる中学生をシメたり、石川の「テメェらの頭とタイマンを張りにきた!」という要求にも応じない、卑怯者として描かれている。そういった悪逆非道のチームを退ける姿が、ヤンキーの抗争でありながら、勧善懲悪のような流れとなっており、安心して観れるヤンキー作品というのもおかしいかもしれないが、そういった感じになっている。

 最後に暴力ではなくチキンレースで勝敗を決めるのも好感が持てる点だ。最近やっていたアニメ『ばくおん!!』で、お嬢様ポジションの三ノ輪聖が、「チキンレースをすればダチ公」的な浮世離れした事を言っていたが、そのノリを地で行っている。

 ファッション面でも、長ランかとっぷく(特攻服)という徹底ぶりで、純白のとっぷくが、ケンカで汚れていく場面には、ダサ格好良さがにじみ出ている。最近の黒を基調とした、ジャックローズ系の服装とはまた違った味わいがあるだろう。

 ただ、難点を挙げるとすれば、江口・石川以外の湘爆のメンバーのキャラの掘り下げがほとんどない。むしろまともなキャラ紹介すら皆無だ。キャラ設定を知った前提となっている。尺の問題だろうから仕方ないが、原沢良美役の我王銀次が、扱いが悪いにもかかわらず、かなりの存在感を発揮しているため、色々ともったいない。かわりに目立ちまくるのが、湘爆のライバルチームである、地獄の軍団の総長・権田二毛作役の翔(横浜銀蝿)で、原作から飛び出してきたような風貌だ。湘爆が雑誌に載った事に嫉妬し、チームPVを撮影するシーンでは、ダサい姿やあがり症な様子も見られ、さらに、横浜御伽との抗争に敗れ入院するシーンなどでも、笑いどころの多くを提供する。また、映画という限られた尺ではあるが、湘爆との良きライバル関係などもそれとなく描写し、湘爆のピンチには助太刀に駆けつけるなど、江口・石川・権田のトリプル主人公と言っても言い過ぎではないほどかなり扱いは良い。

 昨今のイメージの暴走族とは全く違う魅力があるのが本作の特徴だ。まあ、当時でも“漂白”された不良の描写であることは間違いないが、馬鹿で茶目っ気があり、心優しく、不義理は許さない不良が創作物にいてもいいではないか。そういった気にさせてくれる、活き活きとした雰囲気があるのが、本作の魅力的な点だ。80年代という時代にも合っていたのかもしれない。ちなみに、主役の江口洋介は字こそ違うものの、演じた江口洋助と読みが同じとなっているが、江口洋介の芸名は本名で、偶然の一致だそうだ。本名で役のオーディションを受け、1字違いであったことが主役に抜擢された理由という噂もある。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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