「現時点で、中田の開幕スタメンはかなりの確率で『ある』と見ています。実績のある森本(稀哲)を故障で欠いており、起爆剤的な意味合いも込めて使ってくると思う」
ライバル球団スコアラー陣は、そう予想していた。中田は全体練習後の居残り特打を課され、梨田監督は最後までそれに付き合っていた。「打てない」の厳しい口調も、期待の裏返しだろう。
しかし、そんな中田に『ダメ出し』をしたのは、日本ハム首脳陣だけではなかった。母校・大阪桐蔭も中田という存在が「いかに特別であったか」を吐露していた。
21日、プロ野球開幕戦から1日遅れで『第82回選抜高等学校野球大会』(以下センバツ)が始まる。今大会は好投手・一二三慎太の東海大相模、帝京、そして、中田の母校・大阪桐蔭を優勝候補に上げる声が多い。東海大相模、帝京は『格の違い』というか、圧倒的な戦力を誇るが、大阪桐蔭だけは違う。「1点をコツコツと取り、1点を守りきる全員野球」のチームに豹変しているのだ。
高校野球を取材フィールドにしている某スポーツライターがこう言う。
「突出した選手はいませんが、シュアなバッティングのできる好選手が揃っています。守備練習を見ても、俊足で守備範囲の広い選手ばかりなのは一目瞭然です。中田、中村剛也(西武)、西岡剛(ロッテ)、辻内崇伸(巨人)、平田良介(中日)らが在籍したころは、『天才』を中核に据えた豪快な野球をやっていたんですが…」
『繋ぐ野球』、『全員野球』のチームに生まれ変わったというわけだ。中田の恩師でもある同校の西谷浩一監督は「本当はこういう野球がやりたかった」と取材陣に話している。言い換えれば、「中田の在校中は例外」という意味だろう。
同校からプロに羽ばたいた選手は、例外なく入学当初から光り輝いていた。こういった『天才の原石』を磨き上げた同監督の手腕はさすがだが、エンドランや犠打のサインを出したくても出さなかったリスクを背負っていた。そうした『欲求不満』が、全員野球の今のチームを構築させたわけである。
プロ野球解説者の1人が匿名を条件にこう語っていた。
「中田には素質があるのは皆、認めています。しかし、小学校時代から『天才』で、レギュラーを勝ち取る努力とか苦労を経験しないで今日に至っています。練習をサボっても『結果』を残してきたから、プロの世界でヒットが出ないと、自分の打撃フォームの何処が悪いのか、修正できないんです。日本ハムの主力選手たちもそういう中田の欠点を分かっています。でもそれを口に出して言うと、首脳陣批判に繋がるから黙っているんです」
“天才”の扱い方は難しい。
仮に中田が開幕戦で特大の本塁打を放ったとしても、「何故打てたのか、今まで何処が悪かったから打てなかったのか」を頭のなかで整理できないだろう。一流のプロ野球選手とそうでない選手の違いはそこにある。まあ、指導者に転じた一流選手の大多数は、第三者に言葉で説明しきれていないが…。
今季、日本ハム首脳陣は中田を実戦のなかで教育していくつもりだが、稲葉、金子など先輩たちの打撃練習を見て「スゴイ」を連呼しているだけでは、恩師・西谷監督の温情も裏切ることになる。