「大谷君には本当に申し訳ないけれど…。指名をした。あっ、いや、(指名を)させていただきます」
「大谷君からすれば『何すんだ!?』っていうこともあるだろうし、それに対しては、正直に、本当に申し訳ない…。とりあえず(大谷側に)話を聞いてもらえたら、嬉しい」
キャスター時代の流暢な語り口はユニフォームを着てからも変わらなかった。なのに、このときだけは“オロオロ”し、「えぇ、まあ…」「あのう…」と、記者団の質問に言葉を詰まらせる場面も何度か見られた。
「栗山監督はキャスター時代に大谷クンを取材しており、その才能と志の高さを認めていました」(在京球団職員)
ドラフト当日の会見でみせた神妙な面持ちから察するに、野球人・栗山として大谷のメジャー挑戦を応援していたということか…。日本ハム球団の監督として、入団してほしいという気持ちも強く持ってはずだが、その両方の思いの間で揺れていたのかもしれない。
「ソフトバンク、楽天、横浜DeNAも大谷クンの指名を検討したと聞いています」(球界関係者)
一部報道でも、「ソフトバンクが大谷指名を検討」とあった。最終的に東浜巨投手(亜細亜大=4年)を選択したわけだが、『大谷回避』のは、単に「指名しても入団してくれない選手」という後退的な理由だけではない。日本ハムの「その年のいちばん評価の高い選手を獲りにいく」なる方針は正しい。また、ドラフト会場に入場したファンがもっとも沸いたのは、日本ハムの大谷1位指名が明らかになった瞬間だった。この日本ハムの勇気に共鳴するファンはかなり多い。
ドラフトを拒否し、米挑戦したアマチュア選手が帰還する際、高校生は3年、大学・社会人は2年、日本のプロ野球チームとは交渉できない“ペナルティー”が課せられている。俗に言う、『田澤問題』である。この規則を指して、前出の関係者はこう吐露していた。
「大谷クンがどの球団からも指名されなければ、この記録の対象外選手となるんです。大谷クンの将来を考え、指名を見送ったチームもあったみたいですよ」
日本ハムも「交渉の余地アリ」と見たから、強行指名に踏み切ったのだろうが、ドラフト当日に至るまで「2年連続で1位指名選手が入団しなかったら…」の危機意識も内部にあったと聞いている。日米球界の間には両国内のアマチュア選手の獲得を自粛する紳士協定はあるものの、ルールとして明文化されていない。日本プロ野球チームのスカウトは、高校生に対しては『夏の甲子園大会』が終わるまでは直接面談できないが、メジャースカウトにはそのルールは適用されていない。また、日本ハムの大谷投手に対する独占交渉権は「3月末まで」で、現在確認中とのことだが、この間にメジャー球団と本契約してしまう可能性もある。
「内海、長野、澤村、菅野…。たしかに巨人にしか入らないという選手もいますが、『12球団OK』と話すドラフト候補生も確実に増えています。日米間の紳士協定の見直しを含め、ドラフトのルールを見直す必要がまた出てきました」(前出・同)
大谷投手を選んだ日本ハムの『決断』は支持するが、同球団は菅野智之を含め、2年連続でドラフト候補生の人生を変えてしまったわけだ。ドラフト会議当日を「運命の日」とはよく言ったものだ…。ドラフト会場での栗山監督の表情を見て、「日本シリーズでの指揮に影響が出なければ」と思った関係者も少なくないようだ。