◇借金のかたに売り飛ばされた女から16歳の少女まで…◇
一言で性風俗と言っても、ソープランドやヘルス、ピンクサロン、AV、ストリップといった性産業をはじめ、立ちんぼや援交デリヘル、今はなき西川口の本番サロンといった裏風俗に至るまで、書籍に登場する女性たちの働く形態は千差万別。借金のかたに沖縄の“ちょんのま”に飛ばされ、1日に10人もの客を取るハメになった現代の奴隷のような話もあれば、十代半ばの男子グループが管理する売春クラブで体を売る16歳少女の話もあったりと、日本の性産業の暗部にはただ唖然とする。
著者の中山美里さんは、『16歳だった−私の援助交際記』で作家デビューして以来、一貫して体を売る女性について書き続けてきたが、「売春にはリスクが伴う」と語る。
「ひとつは、性病や風邪を移される病気のリスク。二つ目は、結婚しにくい、ちゃんとした恋人を見つけにくい、たとえ足を洗った風俗嬢であっても恋人や旦那に過去がばれるかもしれないといった交際のリスク。三つ目は、次の職に移る際、空白部分の履歴をどう説明するのかといった未来の仕事へのリスク。他にも様々なリスクが存在するんですが、多くの女性は、目先のお金を稼ぐ必要に駆られ、よく考えずにその世界に足を踏み入れます。そして、いざそういう事態となったとき、それを受け止めることができません」
そうしたことから、中山さんは、「リスクを知った上でその覚悟がなければ風俗はやらない方がいい」と声高に言う。
◇稼げない…売れない風俗嬢だと月15万以下もザラ◇
現在の風俗は、昔ほど稼げなくなっており、さらに割に合わないものになっているようだ。
「90年代のフードルブームの頃は誰でも稼げたのですが、今は風俗に参入してくる女性の増加や、不況による単価の下落もあって、売れない風俗嬢だと月15万円以下もザラです。月に80万以上稼いでいるのは全体の5%程度。若い子だと月50万、30歳以上の熟女だと平均30万ぐらいでしょうか」(中山さん)
書籍に登場する元単体系AV女優でもあったマコ(37・仮名)は、90年代のピーク時は月収500万円にも達する売れっ子だったが、今や週に4〜5日出勤しても月の稼ぎは20万円に満たない。3日に1度は客が付かずに“お茶をひく”。これならパートでもしたほうがマシではないかと思うのだが、風俗以外の仕事は何もしたことがない彼女はそこに留まりつづける。老いと比例して市場価値を失っていくシビアな世界で、心も体も疲弊しながら漠然と漂い続ける。
希望の光が見えない無限のアリ地獄。性産業の最下層にひしめく女性たちの姿は想像以上にゆるやかな絶望感に満ち溢れていたようだ。
(井川楊枝)
【書籍データ】
漂流遊女〜路地裏の風俗に生きた11人の女たち〜(ミリオン出版)中山美里(著)