注目の中身はというと、絶望に満ち溢れた中国の実情をコミカルな漫画のタッチでつづったものとなっている。例えば、中国国内の漫画の規制は厳しくて、流血シーンやお色気シーンは描くことができない。しかし、中国の出版社は著作権に無頓着で、日本の人気漫画のストーリーや絵をパクることは鷹揚に認めているという。また、環境汚染が酷くて癌や奇病が多発している惨状や、中国人が尖閣諸島(釣魚島)に対して抱いている思いなど、テーマごとに計8章から成り立っている。
そして全編を通して頻繁に出てくるのが「天朝」という言葉だ。これは「天安門朝廷」の略で、中国政府を揶揄する言葉として民衆の間で広まっているという。1989年、民主化を求める民衆が大量に虐殺される天安門事件が発生したが、この造語には、中国はいまだに封建社会のままだという皮肉が込められている。
●規制された表現! 統制された情報! 公の場で言いたいことも言えない社会!
孫氏は中国政府への不満を強く訴える。懲役11年の実刑を受けたノーベル平和賞受賞者の劉暁波(りゅうぎょうは)氏の例を見ても中国には言論の自由が存在しない。この本の表紙にも「中国人漫画家が命がけで描いた」と銘打たれているが、なぜ、孫氏は危険を冒してまでこの漫画を描いたのか。版元の担当編集者に問い合わせてみた。
「孫さんは中国と日本と行き来する中で、中国政府の発表する言葉だけがまるで中国国民の総意のように日本に伝わっている現状を歯がゆく思っていました。そこで当初は、中国人がどう考えているのか、その本音を日本にも伝えたいという思いから執筆を始めました。結果的に中国政府への不満がたくさん綴られることになりましたが、これは決して政権転覆を目論むような反政府本ではありません。中国人の率直な思いを綴ったエッセイ漫画として楽しんでいただけたら幸いです」
そのコメントからは、やはり著者の安全面にはひときわ神経質になっていることが窺えた。北朝鮮のことは大嫌いで、自由なアメリカに憧れる中国人は多い。たとえ経済成長がストップしたとしても不動産バブルは弾けて欲しい。反日教育で日本人のことは嫌いだが、日本産AVやアニメは大好き…。ざっくばらんに中国人の知られざる本音が語られる中、GDPが世界第2位になったとはとうてい思えないような悲惨な国の実態が浮かび上がってくる。
この大国に希望の光の射す日はやって来るのだろうか。
(杉沢樹)
■「中国のヤバい正体」(大洋図書) http://www.taiyohgroup.jp/index.php/module/Default/action/Detail?item_id=130507001