イベントは3回目。知事のスピーチは今年も振るっていた。
「これで3度目になりますけど、大勢の人においでいただきありがとうございます…って、あんまり人が来ないんだ。これねえ、このイベントの限界でしてね。本当のレースをやらないとなかなか来ませんよ。人を引っ張ってこないと島の復興にもなりませんしね。短兵急に『公道レースをやる』と言ったから(国内バイク)メーカーも反発しましたけど、だんだん誤解もとけてきましてね。有力メーカーも自主的に協力してくれて新しいうれしいステージになりましたが、これで満足するわけにもいかない。雄山の下でモトクロスとロードレースの、何というカテゴリーか知りませんが、そのレースを来年からやります。4000〜5000人集めて日本でめったにないレースをやりましょう。必ずやります。ライダーも体張っておもしろいレースを展開していただきたい。お願いしますよ、みなさん、ねっ。今年はどうでもいい。来年、来年!」
さあ、これからという開幕のあいさつで「どうでもいい」と言われてしまっては、ライダーも島民も笑うしかなかった。
知事が新競技としてぶち上げたのは、2000年に噴火した雄山の中腹に舞台を移すモトクロスバイクの賞金レース。パリ・ダカのように岩や倒木、泥流跡など過酷な自然を乗り越えながらゴールを目指す。バイク業界関係者によると、日本ではあまりなじみがないが、欧米では「エンデューロ」と呼ばれてそこそこ人気があるという。
雨天の開幕となった24日、ヘリコプターで来島した知事はスケジュール変更してあいさつ前にレース会場候補地を視察。三宅村の平野祐康村長らと04年度に完成した榎木沢砂防ダム一帯を見渡しながら国内トップライダーの話を聞き、「ここならすぐできる?」「少し整地する必要あるでしょ?」などと質問攻めした。ロケーション的には問題がないことを確認し、さっそく島民に“公約”したかたちだ。
同フェスティバルをめぐっては、コースの危険性が指摘されても知事が「公道レース」に執着する姿勢を崩さなかったため、安全性の観点から国内バイクメーカーにそっぽを向かれた経緯があった。昨年のあいさつではホンダのイベント妨害疑惑を訴えて徹底抗戦を叫んだが、今年からホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内バイクメーカー4社が協賛。試乗会に最新マシンを提供するなど和解した。
知事は記者団に「(三宅島の)道路事情は狭小で険しいけれど、山の上ならば逆にモトクロスだったら絶好の条件というのが専門家の意見。公道を使ったレースはあきらめました」ときっぱり。競技内容には検討の余地を残しつつも、ホンダをはじめとする国内メーカーの知恵を借り画期的なレースにしたいという。
賞金を集めるほか、好天時に再度視察する考えを明かすなどやる気満々だった。
◎三宅島イベント今後の展望
石原知事が公道レースを断念したことは、イベントの今後に大きな影響を与えそうだ。若者のバイク離れでメーカーは大苦戦。千葉・幕張メッセで開催中の「東京モーターショー」2輪部門では、カワサキが出展を見送った。ホンダ関係者は三宅島のバイクイベントについて「観光客が増えればいい。一方でわれわれメーカー側もどこだってつぶれかねないという危機感を持っているし、お金をかけずにPRするのに必死。イベントの注目度が増してライダーのすそ野が広がればメーカーにもありがたいんです」と話した。
三宅島唯一のレンタルバイク店「朝信」は知事の新構想について「山の上のレースならばだれにも迷惑をかけないし、いいアイデアだ」と賛同した。