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新日本の育成プロジェクト『LION'S GATE』を紐解く4つのワード

 「他団体選手の招聘を含めて、ファーム(2軍)のようなモノを作りたい。イメージ的には小さな興行をやっていくと考えてもらってもいい。ファームの所属選手や、いろんな他団体を含めたトライアル、負傷欠場していた選手の再チャレンジの場所だったり、いろんなモノを試す場になればいいと思うし、いまの新日本は非常にレベルが高いリングなので、いきなりは上がれない場合もある。国内でこういう場が少なくなっているので、トライアル、チャレンジの場を作っていきたい」

 昨年7月に行われた新日本プロレスの戦略発表会で、木谷高明オーナーはこのように「ライオンズゲート計画」をブチ上げた。その第1弾となる「LION'S GATE PROJECT 1」が先月25日に新宿FACEで開催され、467人(超満員札止め)のファンを動員。通常興行に比べて、チケット料金は安く設定され、逆に試合数は9試合と多く組まれたが、どの試合も内容が素晴らしく順調な船出を飾ったと言っていいだろう。次回大会も5月19日に同所で開催されることが会場で発表された。

 これまでも新日本は「夢☆勝ちます」「ライオンズロード」「NEVER」などヤングライオン(新日本に所属している若手選手)はもちろんのこと、他団体やフリーの若手選手にも門戸を開放して育成を目的とした興行を開催してきたが、ブシロード体制になってからは初の試みとなる。今回のプロジェクトは“ファーム(2軍)”“所属選手”“他団体”“再チャレンジ”という4つのワードがポイントと言えそうだ。第1回大会では、それらを紐解く要素がたくさん散りばめられていた。

 第1試合前には、アマレスの育成チーム「ブシロードクラブ」からプロレスデビューに向けて歩み始めた岡倫之と北村克哉が、レスリングのエキシビションマッチを行った。両選手ともにレスリング元全日本王者の実績を持っており、2人のヘビー級選手にも見劣らない肉体と潜在能力の高さを見たファンからは、即戦力として期待する声が数多く上がっていた。この試合でレフェリーを務めたのは、自身もアマレスの育成チーム(当時新日本が設けていた「闘魂クラブ」)からデビューした永田裕志。永田は「LION'S GATE PROJECT」のプロデューサー的な役割も担っている。

 「この2人の潜在能力を、皆さん見ていただけましたでしょうか? 2月から新日本プロレスの道場に入って、目下、猛トレーニングをやっている最中であります。いずれこの『LION'S GATE』の舞台で2人はデビューすることになりますので、皆さん、その時までご声援よろしくお願いします」

 試合後にマイクを持ち、岡と北村のデビューの場が通常興行ではなく『LION'S GATE』であることを明らかにした永田。興行終了後に改めて2人のデビュー時期について聞かれるとこう語った。
 
 「僕は入門して4か月だったので、そういうの考えたら、どんどん早くていいんじゃないですかね。中西(学)さんなんて1か月半ですから。なんにもできないのに、急遽抜擢されて。受け身もできないのに、それでも壊れずにシリーズを完走しちゃった。(スコット・)ノートンやトニー・ホームやバンバン・ビガロとやっても(笑)。そういう怪物性が北村や岡にもある気はする。ただ、受け身とか最低限のものは覚えてくれないと、人材を壊すことになるので、習得すべきことは早く習得させたいですね」

 “青い目のヤングライオン”ジェイ・ホワイトに胸を貸したプロレスリング・ノアの小川良成は、試合後にこんなコメントを残した。

 「俺が新日本に上がるなんて想像もできなかったので、ちょっといい刺激をもらいました」

 試合前にはノア期待の新人、清宮海斗と対戦する田口隆祐に小川が「しょっぱいから厳しくやってくれ」と話していたことも、田口のコメントから明らかになっている。

 第1回大会は全試合で新日本vsノアというカードが組まれ、リングアナやレフェリーも両団体からそれぞれ務めた。第1試合では本城匠のデビュー戦の相手を“他団体”のマイバッハ谷口が務めたというのも異例である。現在のノアは昨年より新日本から乗り込んで来た鈴木軍と激しい抗争を繰り広げており、前日の後楽園大会で鈴木みのるに勝利し、杉浦貴が持つGHCヘビー級王座への挑戦権を獲得した中嶋勝彦は、鈴木に破壊された右腕の怪我を押しながらもガチガチにテーピングをして強行出場。ジュース・ロビンソンと今大会ベストバウト級の試合を行った。

 「いつもの緑のマットとは違う熱が、ここにはあると思う。ぜひ2回目も開催してほしいですね。価値のある刺激が、このマットにあると思います。ノアも負けてられない」

 試合後の中嶋はロビンソンとの対戦を振り返った後に『LION'S GATE』の継続開催を提唱した。中嶋に限らず、若手選手に胸を貸した両団体のトップ選手は新人選手との闘いを純粋に楽しんでいるように見えた。カード的には新日本vsノアという図式であるにもかかわらず、対抗戦というムードはなく、出場選手たちが団体の枠を超えてこのプロジェクトの趣旨を理解した上で試合に臨んだことが、大会を成功に導いた大きな要因ではないだろうか。

 「試合の前の日、当日の朝までずっと、俺は『LION'S GATE』で何が必要か考えて、答えが出ないまま大会を迎えた。それで第1試合からずっと観てたら、ひたむきさとかがむしゃらとか、俺がとっくの昔に忘れてしまったこと、それを若い選手が見せてくれた。これが今日のテーマなんだって改めて思い知った」

 これは天山広吉とのテンコジタッグで、平柳玄藩&キャプテン・ノアと対戦した小島聡のコメント。全9試合の中でこの試合だけチャレンジマッチという形ではなかったため、小島は試合直前まで己のテーマを見出すのに苦労したようだ。永田、中西とともに第3世代のテンコジだが、かつて開催されていた「夢☆勝ちます」には、彼らもヤングライオン時代にチャレンジする立場で出場している。通常興行でなかなかアピールする場がない第3世代にとって、『LION'S GATE』はあの頃とは違う意味で“再チャレンジ”できるチャンスなのだ。

 「これから若い人材を、いろんなところから引っ張ってきたいと思います。最後は僕を打ち破って、若い選手が勝つのがいいんじゃないかと。ただ、僕の壁を打ち破るのは相当厳しいので、そこは覚悟しないとダメ」

 メインでノアの北宮光洋と対戦した永田は、第1回大会をこのように総括した。永田としては、団体を問わず胸を貸すことに関して「いろんな選手とやるのはやぶさかではない」という。普段交わることがない他団体の若手選手にとって、永田を筆頭とする経験豊富な新日本の第3世代と対戦できることは財産であり、まさに第3世代の存在が『LION'S GATE』の価値を高めていくことになる。

 興行面においてはプロ野球のファームのように、いずれは通常興行の日程に関係なく別動隊として『LION'S GATE』を開催していくのがベストだろう。新日本の大会が開催されている会場から離れていれば、同日開催でも問題ないだろうし、年に数回、後楽園ホールで“親子”興行を昼夜で開催しても面白い。『LION'S GATE』には、選手の育成に加えて、プロレス人口を増やすために小規模な地方会場でのシリーズ開催など、フットワークの軽さも期待したい。

(増田晋侍)

<リアルライブ・コラム連載「新日Times」VOL.8>

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