小室容疑者サイドから、携帯電話の着うた配信ビジネスを持ちかけられたのは、都内でデザイン会社を経営するX氏。昨年春ごろ、ビジネスパートナーを介して小室容疑者のマネージャーと連絡を取った際に「小室の楽曲を着うたにして、携帯電話サイトで販売できないか?」と打診されたという。
「最初は『なぜわざわざ外部に頼むのか』と疑問に思いました。小室さんほどのビッグネームなら、携帯サイトに掛け合って『売りたい』で済む話ですから。初期投資は大してかからないし、ビジネスになると思ったので前向きに検討しました」(X氏)
auの携帯サイトで着うたや着メロを販売する場合、配信・課金システムさえサイト運営者が構築すれば、すぐにでもビジネスが始められる。X氏の見積もりではシステム構築費が約500万〜600万円。ネームバリューから新曲のダウンロードにアクセスが集中することを考慮し、ある程度の負荷に耐え得るサーバーの機器レンタル&使用料など、月々のランニングコスト200万〜300万円でスタートできる計算だった。
「もう一度連絡があったとき『全曲配信していいんですか?』と尋ねると、『全部やりたい。売れますかね』と乗り気でした。ぜひ会って詳しく話をしたいというので連絡を待ちましたが、それっきり。いまにして思えば、著作権はないのに売りつけようとしていたのでしょう。いやあ、危ないところでした」(X氏)
兵庫県芦屋市の会社社長(46)が5億円を詐取された事件では、小室容疑者自らが取締役を務める芸能事務所「トライバルキックス」(東京都港区)社長の平根昭彦容疑者(45)、監査役の木村隆容疑者(56)とともに、過去に自作した806曲の著作権を所有しているように装って譲渡話を持ちかけた詐欺の疑いで、大阪地検特捜部が4日に3人を逮捕。いずれも容疑を認めている。
著作権ビジネスのすき間をかいくぐった二重、三重譲渡の構図が浮上。X氏の件は未遂とはいえ、金策尽き果てた小室容疑者のなりふり構わぬ“詐欺商法”といえる。
さらに驚くべき事実が判明した。X氏によると、小室サイドと接点を持ったのは、映画「プラトーン」などに主演した米俳優チャーリー・シーン氏の子供服ブランド「Sheen Kidz(シーンキッズ)」の販売委託がきっかけ。一部報道の通り、小室容疑者の経営する芸能プロダクション「ティーケーシーオーエム」(TKCOM、東京都港区)が06年9月、同ブランドの日本における販売代理店契約を約20万ドル(約2000万円)で結びながら、14万ドル未払いで東京地裁に提訴されている民事事件で、新証言が飛び出した。
訴えたのはチャーリー・シーン氏サイドとのパイプ役である貿易業を営む女性経営者(39)。X氏はネットや携帯サイトを含む販売協力を依頼されながら、小室サイドの契約金未払いによって準備がストップ。いまも、X氏が運営する女性誌モデルのブログを集めたファッションサイト「GLANDY」では、シーンキッズのバナー広告がむなしく張られたままだ。
「小室さんはハナから洋服には興味がなかったようです。チャーリー・シーン氏のビジネスパートナーになるのが目的であり、チャーリー・シーン氏の父親マーティン・シーン氏の製作映画で音楽を担当したかったのではないか。ハリウッドセレブに接近する狙いもあったようです」(X氏)
昨年6月にサイト販売開始予定だったものの、X氏のもとには最初にサンプル品150〜160着が届いただけで商品は送られてこなかった。一部サンプルは小売店でさばき、残りは返品。X氏は「この先、販売展開するのは難しい。損失はありませんでしたが、準備は無駄骨に終わりました」と肩を落とす。
販売をめぐっては、特段の相乗効果がないため当初から小室の名前は使わない予定だった。しかし、ファッション界への進出を考えていた女性有名タレントUが興味を示した時期があり、危うく小室ビジネスに巻き込まれる寸前だったという。
90年代にミリオンセラーを連発した超売れっ子音楽プロデューサーのなれの果て。これではまるで“詐欺のプロデューサー”ではないか。
○逮捕劇が民事訴訟にも影響?
子供服販売契約をめぐる民事訴訟は、今後の小室容疑者サイドの出方に注目が集まりそうだ。
訴状や原告側陳述書などによると、女性経営者が提訴に先立ちTKCOMの預金口座を差し押さえたところ、残高は6259円。6月から小室容疑者と同社のダブル代表に就任したN氏は9月、「なんとか音楽関係の仕事を盛り上げて完済したい」と小室容疑者の非を認め、誠意ある回答を示した。チャーリー・シーン氏は小室容疑者とビジネスができることを喜んでいたという。
原告の女性経営者サイドは、約2年間事態の打開がはかれなかったことから、話し合いをするとしても裁判上で行いたいとして9月17日に東京地裁に提訴。
被告が前向きな対応であれば年内の分割払いを検討したいなどと、和解に向けた話し合いに柔軟に応じる姿勢だ。
4日に同地裁で開かれた第1回口頭弁論で、TKCOM側は「請求棄却を求める」とした答弁書を提出。法廷戦術の可能性はあるが、争う姿勢に転じている。
原告側代理人の望月賢司弁護士は、今後の法廷戦術について「小室容疑者の逮捕がなければ、社会的影響やファンの心情も考えて静かにことを進めるつもりだった。こちらの請求を認めて支払い猶予などを求めるのか、全面的に争うのか相手側の出方を待つしかない。証人尋問となれば、大阪から小室容疑者を移送することになるのか」などと困惑ぎみに話した。
次回期日は12月2日。