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高橋四丁目の居酒屋万歩計 「ほるもん道場」(ほるもんどうじょう、ホルモン焼き)

 東京メトロ東西線・木場駅、沢海橋方面2番出口から徒歩1820歩

 40年の星霜を送ったという、畳1畳もありそうな巨大な鉄板は、道路工事用の機器ケレン棒をもって削っても、もはや昔日の光を取り戻すことは不可能なのだった。下からはガスの直火で強烈に熱せられ、上からは胡麻油とニンニクだれを振られたほるもんの焼き汁が染み出したその黒々とした焼け跡は、酸化などという程度ではすまない化学変化を起こしたものとみえ、結果、真ん中がへこんだ。厚さ12ミリの鉄板の中心は、4ミリは減っている。失われた鉄は、鉄分という栄養素となって、客の胃袋に納まったわけだ。鉄の胃袋…。

 ご亭主が「明日のゴルフのためにホントは今日も休みたかったんだ。ホームページは休みになっているはずだけどな…」と独りごつ。結局、一杯になってしまった1階フロアで、妻に指示し、指示され、忙しげに飛び回りながら、これ以上客が来てももう対応できないから「2階は絶対、開けない」と、ご亭主は誰に言うでもなく、再び独りごつ。
 しかし、遠い。木場駅からここまで大小2本の川を越えた。途中の「養老乃瀧1198号・木場店」に入ってしまおうかとさえ思った。銀行員を辞めて跡を継いだご子息(三代目)が、1年ほどまえに江東区亀戸の亀戸餃子の並びに支店を開いたというから、そちらのほうが便がよさそうだ。

 支店は、テレビ東京の最強情報バラエティー番組「アド街ック天国」の亀戸編で紹介された(ご主人談)というから、女子供にまで人気は広がったかもしれない。ともあれここが本店。店名の商標登録をしておかなかったため、全国に「道場」ができてしまったのが悔やまれると店のパンフレットが嘆く「道場」発祥の地にいる。こちらも、も一度独りごつ。遠い。
 土木関係者とおぼしき5人組が来店。「2階は絶対、開けない」ご主人の断固たる方針にしたがって全員が少しずつ詰める。土木関係者は親方から順に、チーフ、セカンド、サード、フォースと位通りに腰掛けた。この呼び名は映画現場のものだが、彼らも飯は職能ごとに食べる。ちょっとした打ち合わせを兼ねてそうしているか、いやそうではない。
 演出部、撮影部、照明部、録音部は、監督の下でそれぞれ一家をなしていて利害は一致しない。互いに軽く憎んでもいるから、雑談に刺(とげ)が混ざるので他の一家には聞かれたくない。だから飯を一緒に食わない。どうやらご新規の5人組もそのような種類の話題で盛り上がっているのだが、親方の右隣りのチーフが口をきかない。この男、今夜はこれで押し通すつもりでいる。
 ほるもんを、焼いて、押して、転がした塩浜の夜、クールを通したのは、生ホッピーとチーフ土木関係者1名。こちらは、てかてかの額を冷ましながら、また川を2本渡って帰ったのでした。

予算3500円
東京都江東区塩浜2-11-8

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