今場所の賜杯の行方に、そして栃ノ心の大関昇進に、非常に大きな意味を持つことになったこの一番。取組前に通路で待機していた栃ノ心はえずくような仕草を見せ、白鵬も1回目の立ち合いで先に立ってしまうなど、その両力士の緊張感は場内はもとよりお茶の間にも大いに伝わっていた。
仕切り直しとなった2回目の立ち合い。真っ向から相手にぶつかり、がっぷり四つの体勢となった両者の相撲は力比べの展開に。お互いに互角の引きつけ合いを見せるその姿は、往年の白鵬対朝青龍戦を思い起こさせるようであった。
10秒ほどの膠着状態の後、栃ノ心はその怪力を全て振り絞り、白鵬を土俵際に。白鵬も俵に足を残しながら、最後の最後までこれに抗うなど横綱の底力を見せたが、最後は栃ノ心の執念が上回り勝負あり。およそ40秒に及ぶこの名勝負に、国技館の観衆からは割れんばかりの大歓声が上がった。
両者がお互いに全力を出し切った、12日目の大熱戦。今取組を受け、ネット上には「期待通りの好勝負だった!」「栃ノ心もすごいけど白鵬もすごいよ」「2人ともいい相撲見せてくれてありがとう」といった称賛の声が。また、既に濃厚となっていた栃ノ心の大関昇進に関しても、「場所後の昇進は確実かな」「さすがにこれは文句無しでしょ」といった“当確”のコメントが挙がっている。
2008年九州場所での初対戦から約10年。これまで白鵬と25回対戦し、1度も土をつけることができなかった栃ノ心。“26度目の正直”でその天敵を撃破した今回の取組は、自身の大関昇進を決定づける何よりの好材料となったことだろう。また、各メディアの報道を見ても、“大関昇進待ったなし”といった論調がほとんどだ。
琴欧州(ブルガリア出身)、把瑠都(エストニア出身)に続く欧州勢3人目の大関誕生へ――。異論を唱える人は、もういないはずだ。
文 / 柴田雅人