連載当初は変人ともいうべき個性溢れる音大生たちによるコメディ色の強い作品であった。しかし、連載が進むにつれ、のだめと千秋真一の成長物語の側面も濃くなっていった。二人が音楽家として実力をつけていく成長の軌跡が描かれる。二人はパリに留学し、プロデビューを果たす。ここで本編が完結し、再び日本を舞台としたアンコールオペラ編が始まった。
このオペラ編では、千秋がオペラに初挑戦する。演目はモーツァルトの『魔笛』である。峰龍太郎や奥山真澄ら連載初期のキャラクターも活躍し、初期からのファンには嬉しい。また、オペラの練習も個性的なメンバーの暴走でうまくいかない。このドタバタ感は初期のオーケストラの練習風景とオーバーラップする。
一方でオペラ編は本編終了後のアンコールであり、本編とは異なる雰囲気もあった。のだめと千秋は世界を舞台にプロデビューを果たし、凱旋帰国した立場である。本編にあったような音楽や進路に悩む要素は少ない。代わりにオペラ編の新キャラクターの吉倉杏奈や菅沼沙也が壁にぶつかり苦しんでいた。のだめや千秋は主役というよりも狂言回し的な一歩下がったポジションで、物語は進行した。
このまま新たなキャラクターの成長物語に進むのかと思われたが、第25巻で逆転した。オペラの練習では様々な問題が発生し、未解決のまま公演当日を迎えることになる。指揮者として千秋は本編のように悩み苦しむ。それを救ったものは、のだめの歌うような(カンタービレ)ピアノであった。新たなキャラクターをフィーチャーする展開に見せつつ、のだめと千秋で締めた。『のだめカンタービレ』は最後まで『のだめカンタービレ』であった。
(林田力)