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庶民の生活を直撃する パン業界相次ぐ値上げの裏

 食品パンメーカー大手の山崎製パンや敷島製パンが、食パン、菓子パンを、7月1日からそれぞれ平均で3.8%(70品目)、2〜5%(81品目)値上げした。
 約3年ぶりに値上げした背景には、今年4月に輸入小麦の政府売り渡し価格が引き上げられたことがある。その原因は小麦自体の不作があるが、さらに複雑な別の要因もあり、日本経済全般に悪影響を及ぼす懸念が高まっている。

 まずは農水省関係者が、小麦の輸入事情についてこう説明する。
 「日本で消費されている小麦粉の約9割は輸入小麦。これらは、まず業者ではなく日本政府が現地から買い付け、それから国内の企業に売り渡される。価格も国際相場や為替相場などから政府が決め、輸入元はアメリカを筆頭に、カナダ、オーストラリアとなっている」

 ところが昨年、その主な輸入元のカナダやオーストラリアが天候不順で不作に陥った。
 「ただし、他の原因として問題なのが、原油価格の高騰です。これをカバーするためにバイオ燃料を使う流れが強まっているのですが、その原料となるのが、小麦やとうもろこし。そのことが、さらに相場を押し上げているのです」(経産省関係者)

 では実際、今回のパンの値上げは、家計にどれぐらいの影響が出るのか。フィナンシャル・プランナーは、こう見立てを話す。
 「日本人の場合、3人家族で年間1000円程度の負担増と言われる。もともと小麦は安いものなので、それがパンなどに影響があっても家計にはほとんど影響はないでしょう。むしろ深刻なのは、大元となっている原油価格の高騰。現在、1バレル(約160L)75ドルにまで届く時もあり、昨年の同時期と比べ30ドルも上がっている。これが小麦程度で済んでいればいいのですが、日常生活品のすべてに影響が出てくる可能性がある」(同)

 実際、パンの値上げと時期を合わせるように、他の分野でも原油価格高騰の煽りを受け、値上げラッシュが続いている。
 例えば航空業界では、8月に国際線の燃油サーチャージ代が上がる予定で、JALやANAは8月から欧米路線で往復約7000円アップの2万8000円となる。また、日本エネルギー経済研究所石油情報センターによれば、レギュラーガソリン1L当たりの全国平均価格は6月4日まで7週連続で値上がりし、152.1円まで上昇。その後も一進一退しながら大きくは値下がりしていない。
 「電力とガスの大手14社は、エネルギー使用量の多くなる8月、家庭向け料金(平均月260キロワット使用時)を揃って引き上げる。その理由も、やはり原油の高騰や液化天然ガスが値上がりしているためです。それぞれの月での平均値上げ幅は、東京電力が37円、中部電力が34円、東北、中国電力が20円台、関西、九州、沖縄が18円、北海道電力が17円、四国が13円、北陸が10円。ガスは東京ガスなど全ガス大手が18円から27円まで値上げします。他にも原油の影響は、ビニールや食品トレー、化学繊維などにも直撃しそうです」(経済誌記者)

 明治HD、森永乳業、雪印メグミルクも、チーズなど2〜7%価格を引き上げている。食品大手のミツカンは、納豆の主力シリーズを10〜20%値上げする。石油溶剤を多用するクリーニング大手の白洋舎も、11年ぶりにドライクリーニングの価格を5%程度値上げした。
 「原油価格の急騰は、アメリカやイラン、サウジアラビアなどの複雑な思惑が絡んでいます。イランとイスラエルは激しく対立し、アメリカはトランプ大統領の娘婿であるジャレット・クシュナー上級顧問がイスラエルに根付くユダヤ教の熱心な信奉者。そうした中、トランプ大統領はオバマ前大統領が'15年に結んだイラン核合意からの離脱を宣言し、さらに日本などにイランからの原油輸入ストップを要請。その後は、サウジからの積極的な輸入を示唆している。一方、そのサウジは原油価格を吊り上げ、大儲けをたくらむ。それらが原油を急騰させているわけです」(同)

 しかし、庶民にとって頭が痛いのは、一度値上がりしたパンなどの諸物価は原油価格が下がっても、ほとんど値下がりしないことだ。
 「パン業界の値上げは今後、デフレ脱却へ向かう糸口になるとの見方もあるが、現状において消費者がついてくるほど景気はよくなっていない。企業側もそこを見誤ると、結果的に値下げ、もしくは人件費削減に踏み切らざるをえなくなる」(経済アナリスト)

 来年、消費税の10%アップが予定されている中でも、庶民の給与は上がらない。そんな中、主食の一つであるパンの値上げは、さらに生活を圧迫する序章にすぎないのかもしれない。

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