「今年だけは阪神に勝ってもらった方が、プロ野球界全体のためになる」。読売出身の球界関係者からも、5年ぶりの猛虎優勝待望論が起こっている。勝って当たり前の巨大戦力を抱えている巨人がリーグ4連覇しても、いっこうに盛り上がらない。
まして「憎まれっ子、世にはばかる」存在の落合博満監督率いる中日に4年ぶりのリーグ優勝されたりしては、一気に盛り下がってしまう。中日ファンの間でさえ、「早く立浪監督を見たいから、落合に優勝されては困る」という声があるほどなのだから。
日本中にいる熱狂的な猛虎ファンの数が12球団一なのは、昨年まで5年連続トップを誇る観客動員数で証明されている。今季もV6へ向け、快進撃を続けている。前出の読売出身の球界関係者も待望する猛虎優勝実現へ、なぜヤクルトが救世主役になれるのか。
今季の3強に対する理想的な戦いぶりがあるからだ。
阪神に6勝11敗と5つも負け越し、巨人には8勝9敗とほぼ互角。中日戦になると11勝7敗1分と4つも勝ち越している(成績は26日現在)。現状の戦いぶりを、残りの3強との試合(阪神、巨人7試合ずつ、中日5試合)でも維持してくれれば、阪神優勝へのアシストという最高の結果になる。
中日に対する強さは今季だけのものではない。高田監督が就任した08年に13勝9敗2分と4つの勝ち越し。昨年も13勝11敗と2つのプラス。この3年間、なぜか落合監督はヤクルトと相性が悪い。
巨人との互角の勝負は、小川監督代行になってからのものだ。08年6勝18敗と12の負け越し。昨年も5勝18敗1分と13もの負け越し。巨人軍優勝協力会状態だったのだ。一昔前の逸話を思い出させる。球団買収時のヤクルト・松園尚巳オーナーが「巨人には勝たなくていい」指令を出したのだ。「世の中は巨人ファンが一番多い。巨人に勝って、ヤクルトが売れなくなったら困る」というのが、その理由だったという。当時のヤクルト監督だった広岡達朗氏が日本経済新聞の『私の履歴書』で書き記しているから、ウワサではなく、事実だろう。
今回はV9巨人のレギュラーだった高田監督が古巣へ恩返ししたというわけではない。札束攻勢でヤクルトのエース・グライシンガー、4番・ラミレスをダブル横取りされた高田監督の怒りはすさまじかった。リベンジの気持ちが強すぎてカラ回りといったところが、現実だろう。が、小川監督代行になってから巨人への呪縛が解け、互角の戦いをしているのだ。
対阪神は1年置きの成績になっている。08年に10勝13敗1分と3つの負け越し。クライマックスシリーズの出場権を争い、勝った昨年は15勝9敗と6つも勝ち越している。今季は負け越す順番なのか。いずれにしろ、小川ヤクルトにはセ3強レースのベストな決着をつける救世主的な役割が期待される。