結局、最後の最後で巨人から出て行った、遺恨相手の横浜・尾花高夫監督に足を引っ張られ、連敗したのが致命傷になる原辰徳監督。V逸で内閣改造を迫られることになる。というのも、伊原春樹ヘッドコーチが舌禍事件を起こしたからだ。
23日の横浜戦(東京ドーム)で、他球団は簡単にKOするのに、巨人だけは打てない、メジャー帰りの苦手・大家に仏の顔も3度どころか、4度目だというのに、またもやひねられ、瞬間湯沸かし器の伊原ヘッドコーチがタブー破りをやったからだ。
「名前は言えないが、野手も謙虚さを持って欲しい。スコアラーが対策を練って説明しているわけだから、自分の感覚ばっかりの打撃をせずに実践することが必要だ」。
名指ししなくても、この日の試合で4番・ラミレス、5番・阿部が4打数2安打を打っているのだから、4打数ノーヒットに終わった3番・小笠原のことを言っているのは、一目瞭然だろう。「謙虚さを持って欲しい」と言われるような野手は一流選手を指しているのだから。
「3番・三塁」の小笠原は、攻走守共に気迫を前面に出してプレー、ケガをしても弱音を吐かない。まさに「ガッツ」の異名通りで、守備に不安のある4番・ラミレスよりもチームに対する貢献度は高い。投手がピンチに陥れば、いの一番にマウンドに駆けつけ、激励する。自他共に認めるチームリーダーだ。
「ウチにも金本が欲しい。ケガをしても平然と出場を続け、プレーでチームを引っ張る鉄人が」。こう訴え続けた原監督がようやく獲得できた「巨人の金本」が小笠原だ。小笠原が日本ハムからFA移籍した07年から巨人の3連覇が始まり、その年のセ・リーグMVPを獲得した事実を見ても、その存在価値の大きさがわかるだろう。
そんな小笠原に対して、伊原ヘッドコーチは「スコアラーが対策を練って説明しているわけだから、自分の感覚ばっかりの打撃をせずに実践することが必要だ」と、決めつけたのだから、チームに大きな波紋が広がるのは避けられない。伊原ヘッドコーチにすれば、横浜・尾花監督への個人的な恨み辛みがあるので、足下をすくわれ、頭に血が上ったという理由もあるだろう。
巨人入りした際に「野手総合コーチ」の肩書きが与えられたが、「尾花のチーフ投手コーチと、野手総合コーチとでは、どちらが偉いのか。監督に次ぐナンバー2はどちらなのか」と球団側に迫り、開幕前のオープン戦の時期に「ヘッドコーチ」のポストを獲得したのだ。そういうむき出しのライバル意識を持っていた尾花チーフ投手コーチが、横浜監督に栄転したことは腹立たしいことだろうし、大事なところで足下をすくわれたので、逆上。思わず小笠原批判というのが楽屋裏だろう。
が、口は災いの元。いったん口外してしまった以上、取り返しはきかない。寡黙な小笠原は表立って反論しないだろうが、伊原ヘッドコーチへの反発は内心抑えきれないだろう。小笠原に心酔しているナインも腹立たしい思いは隠せないだろう。
「選手のご機嫌を取るコーチばかりではダメだ。選手に嫌われるコーチも絶対に必要だ。伊原みたいなコーチもいていいんだよ」。ソフトバンク・王貞治球団会長は、監督時代から「選手に嫌われるコーチの必要性」を説いていたが、今回ばかりは、やりすぎの感は否めない。日本ハム時代に首位打者2回、本塁打王、打点王各1回ずつ獲得している、超一流打者の小笠原の打撃スタイルそのものを否定する暴論だからだ。
V逸して監督の責任問題にまで波及しない場合は、ヘッドコーチの引責辞任が慣習になっている巨人。球団側とすれば、今回の舌禍事件で解任しやすくなったかもしれない。