押尾被告は、濃いグレーのスーツにネクタイ姿で出廷。短くカットされた髪には白髪が目立ち、公判中は終始うつむきかげん。裁判官から「もう少し大きな声で話して」と注意される場面もあった。
この日の公判で、検察側は「約2年前と今年3月、7月にも渡米先で酒に入れて飲んだ」とする被告の供述調書の一部を朗読。現場マンションでは一緒にいた飲食店従業員の田中さんが死亡。被告人質問で、押尾被告は田中さんからMDMA1錠をもらい「軽い気持ちで飲んだ」と述べ、検察側から被告本人が携行していたものかどうか追及されると「違います」と否定した。
検察側は押尾被告のクスリとセックスの関係の追及に力を入れた。MDMAの使用目的をセックスの快感のためとする検察側は何度も「セックスするために(女性と)会ったのか」「セックスの快感目的ですか」と質問を繰り返し、押尾被告はそのたびに「違います」と否定。さらに死亡した女性との肉体関係について「今まで何回くらいセックスしたのですか」との問いに「本人の名誉のために答えられません」と答えたが、取り調べでは約10回の関係があったと供述したと返された。
検察の追及は厳しく、8月2日の事件当日、押尾被告が女性に「来たらすぐいる?」とメールを送り、「いる」と返事がきたことを暴露。押尾被告にメールが写った写真を見せ、「すぐいるっていうのはどういう意味?」と質問。押尾被告は「僕自身のこと。薬の話ではありません」と弁明した。検察官は「僕自身とは陰茎のことですか? すぐセックスしたいかという意味か?」と続け、押尾被告は「はい」。検察側は「セックスは“いる”ではなく“する”“やる”というのでは?」と追い打ちをかけた。
しかし、女性の異変から119番通報までの“空白の3時間”については一切触れられなかった。
検察側は「常習性は明らかで再犯の恐れもある」として懲役1年6月を求刑。弁護側は執行猶予付きの判決を求め、結審した。判決は11月2日。
一方、公判では、女性が死亡した経緯について警視庁が保護責任者遺棄罪などでの立件を視野に、連日、押尾被告に任意聴取していることも判明。今回の公判について専門家は、保護責任者遺棄罪でも立件する可能性はあるとみている。
「“空白の3時間”についてあまり触れらなかったのは今、多くを聞いてしまうと、相手にタネを明かすことになる。別に起訴する意思があるからこそ“空白の3時間”には触れなかったと思う」(専門家)
今回の判決後も、押尾被告は再び法廷の証言台に立つことになるかもしれない。
◎死亡女性の父無念
3時40分過ぎ、2時間余りにわたった押尾被告の公判が終了すると、傍聴席にいた田中香織さんの父親を取材しようと報道陣が殺到。すし詰めのエレベーターが一時ストップしたり、遺族関係者と思われる男性と一部報道陣が小競り合いになるなど、大混乱が起こった。
場所を地裁隣の弁護士会館前に移し、父親サイドはコメントを書面にしたものを配ったものの、報道陣の勢いは止まらず、なし崩し的に囲み取材へ。
それでも父親は最初、冷静を保った表情で「写真やテレビの方は顔から下だけ撮ってください」と宣言。傍聴した感想を聞かれると、「特にまだ何も言えません。麻薬の件だけですから何も言うことはありません」と、うつむき気味に話した。
感情を爆発させたのは、「押尾被告の背中を見て何を言いたかったか?」との質問。父親は顔をキッと上げ、「娘のために救急車呼んでくれよ! それだけだよ、言いたいことは!」と、悔し涙をボロボロ流しながら叫んだ。
最後には「飛騨に帰ります。帰って娘に手を合わせます」とだけ言ってタクシーに乗り込み、まな娘を飲み込んだ東京を後にした。
たった1回の公判で結審してしまったことから、押尾被告の保護責任者遺棄致死罪などでの余罪は不問に付されるとの見方もある。だとすれば、遺族らは、怒りの矛先をどこへ向ければいいのか。この日、父親らが報道陣に配布したコメントにはこんな言葉があった。
「私どもとしては、捜査関係者から、『捜査中である』旨の説明を受けていますので、それを信じ、真実が明らかになることを切に望んでいます」
押尾被告の判決は11月2日に言い渡される。