去る11月26日、「NPB AWARDS 2019」がグランドプリンスホテル新高輪で行われ、注目のセ・リーグ新人王は高卒2年目の村上宗隆内野手(19=東京ヤクルト)が選ばれた。発表と同時に記者団から漏れたのが、冒頭の言葉だ。このセリフは“重い”。
村上168票に対し、阪神・近本光司(25)は129票。新人王は野球取材歴5年以上の記者による投票制だが、全員に与えられるものではないのだ。
対象選手に対し、公平性を保つために関東と関西で投票記者の人数を同じくするなど、NPBや記者クラブで配慮しているのだ。しかし、村上と近本が僅差になった理由はそれだけではない。
「インパクトの問題。村上は10代で4番を任され、逆転サヨナラ本塁打も放っています(8月12日)。しかも、対戦投手は侍ジャパンでクローザーに成長したDeNAの山崎ですよ。19歳が放った36本のホームラン数と、近本のリーグ新人記録となる年間159本のヒット数や36個で獲得した盗塁王のタイトル奪取を比べて、どちらに価値があるのかと聞かれても、誰も答えられません」(ベテラン記者)
こんな見方もできる。同じく記者投票によって決めるベストナインだが、村上は一塁手部門49票(2位)、三塁手部門12票(4位)。どちらも受賞者と大差がついている。近本は外野手部門で26票の5位。しかも、同4位の中日・大島が126票を集めたので、かなりの大差をつけられたことになる。ベストナインの選出では、打撃、走塁が強く影響する。盗塁王のタイトルを獲得した近本が“完全な圏外”となったのは、阪神打線にも原因があるのではないだろうか。
阪神は今季、リーグ最多となる100盗塁を記録した。「近本一人が3分の1以上を稼いだ」計算だが、チーム総得点538は、リーグワースト。犠打104は、リーグ3位。盗塁、バントを絡めて「一つでも前の塁へ」と、矢野燿大監督(50)の采配も一貫しているわけだが、チーム総得点が低すぎる。それは、近本が出塁しても、クリーンアップが「ここ一番のチャンス」で打てないからだ。
「近本は特別表彰されました。阪神で特別表彰に選ばれたのは、2013年の藤浪晋太郎以来です。藤浪も新人王に届きませんでしたが、高卒一年目でしっかり先発ローテーションを守り、それを讃えられて」(前出・ベテラン記者)
蛇足になるが、筆者も別分野だが投票権を持っていた。仲間うちで「誰に入れる?」という相談もした。芸能方面になると、不倫騒動で逃げ回っていた某俳優を授賞式に引きずり出すため、“組織票”が作られたとも聞いている。
しかし、スポーツは数字が残る。だから、投票に“個人的な感情”は入れられない。阪神はリードオフマン・近本を新人王に導けなかった理由について考え、チーム再建策にもつなげるべきだ。(スポーツライター・飯山満)