12日(現地時間)のナショナルズ戦後、ジェリー・マニュエル監督は、5試合連続無失点とバツグンの安定感を見せている高橋について質問され、そう答えた。先発デビューは時間の問題だろう。思えば、キャンプはマイナー契約での招待選手扱いで、メジャー昇格後も登板は『中継ぎ』のみだった。それでも、腐ることなく、結果を積み重ねてきただけにチームメイトも『オールドルーキー・高橋』を好意的に見ているという。しかし、一部からはこんな声も…。
「代理人が違う人だったら、こんな苦労もしないで済んだのに」
日本だけではなく、アメリカのメディア陣からもそんな“同情論”が聞かれた。
高橋の代理人はピーター・グリーンバーグ氏。兄弟で事務所を設立しており、中南米系の選手をお得意様にしている。昨今、福岡ソフトバンクと契約した元ヤクルト、巨人のロベルト・ペタジーニ(38)、アレックス・ラミレス(35)も担当している。
「04年オフ、日本ハムの稲葉が米挑戦しようとした際、一時的にグリーンバーグ氏がその窓口になりました。元巨人の入来祐作も彼に相談しています。門倉健がFAで横浜を出たときも、彼が代理人だったはず」(前出・同)
しかし、彼の名前を日本で有名にしたのは昨秋発覚した岡島秀樹投手(34)との“トラブル”だ。
「岡島は3年契約が満了する昨シーズン、自分はFAになると思っていました。球団と再交渉をするつもりでいたら、保有権は球団にある、と…。要するに岡島は自由に交渉ができない契約になっていたんです。こんな一方的な契約は新人選手に限った話であって、しかも、岡島は代理人から全く説明がなかったことに激怒していました」(現地特派員の1人)
その後、岡島が代理人を変更した。岡島が日本のマスコミに話した限りでは「和解の話し合いの場を設けたが、スッポカされた」「新しい代理人に引き継ぎの手続きもしてくれない」「彼の説明と、球団の話が食い違っている」とのこと。高橋がグリーンバーグ氏と代理人契約を交わした際も、「アイツだけは辞めておけ」とコメントしていた。しかし、高橋も“大人”である。評判の悪くても、グリーンバーグ氏と契約する利点があったから代理人を任せたのだろう。
また、意外な分野から同氏の評判が聞けた。米経済誌の和訳も行うアナリストからである。
「米経済誌がメジャーの代理人特集を組み(08年)、メジャー30球団の平均年俸よりも高い契約をまとめた成功率、実際に契約した選手の年俸からチーム平均年俸を引いた額などを、代理人別に計算したんです。グリーンバーグ氏は約300人いるメジャー選手会認定の代理人のなかで(会社を含む)、上位にランキングされていました。今はどうか知りませんが、経済誌は有能な代理人と位置づけていましたよ」
高橋の「代理人選択を間違えた」と言う側の根拠は、こうだ。昨年、米スカウトは菊池雄星を視察する足で高橋も見ていた。左投手の需要の多さに加え、スクリューボールを投げるタイプが少なくなったメジャーの事情もあって、「高橋は先発で通用する」と評価していた。その評価と、実際にメッツと交わしたマイナー契を比べると、「ギャップが大きすぎる」と言うのだ。
「グリーンバーグ氏はメッツのエース、ヨハン・サンタナの代理人でもあります。その関係で高橋を入団させることができたのでしょう。グリーンバーグ氏でなければ、高橋のメッツ入りは実現しなかった」(球界関係者)
同氏をそう擁護する声もある。
高橋の契約金だが、マイナー契約が交わされた際には詳細は伝えられなかった。メジャー昇格したあかつきには「最大で300万ドル(約2億7000万円)のオプションも付く」と一部報道にあったが、改めて関係者に聞いた限りでは「100万ドル程度」とのことだった。
結果論とはいえ、メッツは100万ドルで「先発ローテーション投手」を獲得したことになる。そんな“お買い得の左腕投手”を仲介したことによって、メッツ内部におけるグリーンバーグ氏への評価はかなり高まったという。通常、代理人は選手に少しでも有利な契約をまとめるものだが、今回は球団を設けさせてしまったわけだ。選手本人よりも代理人の評価が高まるとは、何とも割り切れない話である。