阪神タイガースの佐藤輝明は今年前半の主役だった。開幕後からホームランを量産、一試合3本塁打や球団レコードなど、新人としての本塁打記録を塗り替え続けた。
チームはシーズン序盤から首位を走り、16年振りのペナント制覇へ向け、ファン共々大いに盛り上がりを見せた。その中で、過去タイガースが勢いづいたシーズンには、必ずと言って良い程「救世主」とも呼べるプレイヤーが存在しており、今シーズン前半の活躍もあって、佐藤は2021年「虎フィーバー」を象徴する存在となった。
だが、開幕から3か月が経過した6月30日には、既に三振数が3ケタに到達するなど、むき出しとなっていたウイークポイントはシーズンが進むにつれ、さらに大きな不安材料となっていく。
そして現在、佐藤は泥沼から抜け出せずにいる。夏が終わると2軍降格も経験し、打棒は勢いを完全に失ってしまった。
9月28日から、チームは本拠地甲子園での対広島戦を戦っている。連勝で迎えたホームでの初戦、佐藤はスタメンに名を連ねるも3打席で凡退、プロ野球ワーストタイとなる野手での53打席連続無安打を記録。数字もさることながら、完全に「手玉」に取られたと言える内容だった。
2回、ランナー2人を置いて外に逃げるボールを2球空振りすると3球目、外いっぱいの直球に手が出ず見逃し三振。2打席目の一塁ゴロの後、7回の3打席目、今度は2ストライクから高めのストレートを空振り。スイングは何れも長打狙いの大振りは変わらず、いずれの打席もコーナーを突かれ、広島投手陣に完全に攻略されていることは明らかだった。
翌日は、5回に代打で起用されるもストレートに差し込まれ、浅いレフトフライに終わる。
もはや無安打記録更新が不思議ではないと思えるほど、痛々しさすら感じるここ2試合の打撃内容だった。
また、シーズン中盤までは「独走状態」だった新人王争いも、広島・栗林良吏やDeNA・牧秀悟などのシーズンを通しての高いレベルを維持するルーキーたちの後塵を拝する形となっている。輝きを放ったインパクトも今では遠い過去のものとなってしまった。
チームの優勝、あるいはポストシーズンでの戦いに加わるためには、目の前の大きな壁を乗り越えなければならない。「規格外の男」佐藤輝明は、プロ1年目にして早くも選手としての正念場を迎えている。(佐藤文孝)