「スカウトの間で、プロの一軍レベルに近いと評価されていたのが、中日に4位指名された郡司裕也(慶應大)と千葉ロッテの2位指名、佐藤都志也(東洋大)の両捕手でした。チーム事情もありますが、郡司はキャンプを順調に過ごせば、開幕一軍は間違いないでしょう」(在京球団スカウト)
中日は昨季、捕手を固定できなかった。大野など3人の捕手を主に使っていたが、なぜか、全員揃って打撃が低迷。与田剛監督も先発投手との相性、あるいは試合前の打撃練習を見て、スタメン捕手を決めていたという。
捕手の日替わり状態で優勝戦線を戦うのは厳しい。2019年の下位低迷の敗因の一つは、正捕手不在だった。
与田監督を始め、中日首脳陣が新人の郡司で勝負しようという雰囲気になっている理由は、現有戦力のだらしなさだけではなかった。
「ドラフト指名後に評価を高めた新人は珍しい。しかも、試合で…」(名古屋在住記者)
昨秋のドラフト会議だが、郡司は東京六大学・秋季リーグ戦の真っ最中だった。これは日程的な理由であり、他の大学リーグに所属する大学生も同じだが、郡司は違った。指名されたことを発奮材料に変え、本塁打、打点、打率の三冠王に輝き、チームをリーグ優勝、明治神宮大会制覇へと導いたのだ。
前出の在京球団スカウトがこう言う。
「一般論として、ドラフトで指名された大学生は標的にされがちです。バッターは相手チームのマークが急に厳しくなり、ピッチャーは狙い打ちされたりと…。プロ入りの夢を叶えた者への嫉妬で、徹底的にやられています」
4年生最後の秋季リーグで、それを撥ね除けた精神力に、与田監督たちが「今までの新人とは違う」と思い始めたそうだ。また、郡司は他の新人よりも精神的な強さを持っているとも言えそうだ。
「近年、打てる捕手は本当に少なくなりました。12球団を見渡してみても、広島の會澤くらいでは? 郡司には『打てる捕手』になれる可能性があります」(前出・記者)
もっとも、「打てる捕手」の可能性で言えば、ドラフト前、「佐藤は打撃センスが高い」と評されていた。千葉ロッテは中日のような厳しい状況にはないので、こちらは少し一軍デビューが遅れそうだが、中日は正捕手不在。伊東勤ヘッドコーチは捕手出身であり、自身も若くしてスタメンマスクをかぶり、先輩投手に鍛えられてきた経験もある。中日はこの郡司を育てていくつもりではないだろうか。ちょっと早いが、20年のセ・リーグ新人王候補とも言える。下位指名だったが、この郡司が今春キャンプをどう乗り切っていくのかにも注目しておいたほうが良さそうだ。(スポーツライター・飯山満)