伯母さんと健太君が居間にいた。
言葉をかけた。
「こんにちは」
伯母さんが、すぐに返事をしてくれた。
「ごくろうさん、悪いね」
「いえ」
伯母さんは、喪服の上にエプロンを巻いている。伯母さんたちはもう、ごはんも食べ終わっているみたい。
健太君が、一人で、お味噌汁が入ったお碗をすすっていた。
健太君に手を振った。
「健ちゃん、久しぶり」
健太君は、はにかんで、それから、伯母さんを見た。健太君は、あい変わらず、照れ屋なんだ。
伯母さんが、そんな健太君を促した。
「ほれ、お姉ちゃんに、こんにちはって」
健太君は、私の方を見て、あいさつをしてくれた。
「こんにちは」
健太君の口もとが開いて、ほっぺたが、まん丸おむすびみたいになっている。やわらかそう。昔から、このまん丸おむすびの真ん中のふくらみを指でつつくのが好きだった。
私は、健太君が生まれた時から、ずっと抱いているし、お風呂へ入れてあげたことも何度もある。健太君は肌が真っ白で、だっこしたり、おんぶしたりして外を歩くと、みんなから「かわいい女の子ですね」って、まちがえられた。ピンクの服を着せて、わざと女の子みたいな格好をさせたこともある。
でも、赤ちゃんだったころの健太君は、私が抱くと、しょっちゅう私の胸から逃げだしたがった。それでいて、伯母さんに抱かれると安心した顔をして、くりくりの真っ黒な瞳で、周りを眺め始めた。
健太君は、私へ「こんにちは」ってあいさつをしてくれたあと、よそ見をした。
それから、健太君は、こたつテーブルから立ち上がり、部屋の中を駆けていった。
健太君は、背が伸びたみたい。
けど、それでも、まだ小さい。もともと小柄で、しかも、早生まれなので、伯母さんはいつも、「幼稚園でも、小学校でも、背が組で一番目か、二番目に低い」とこぼしていた。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・EZU&夜野青)