「開幕カードだけかなと思ったんですが、第3節の埼玉西武戦でも強行しました。今後も続けていくようですね」(プロ野球解説者)
4月7日、対埼玉西武の第2戦。2回表、5番バッターの森友哉が打席に向かうと、日本ハムの守備陣が動き始めた。三塁手の浅間がレフトに走る。レフトの王柏融がセンター方向に行き、センターの西川遥輝が右中間に守備位置を変える。ライトに入っていた大田泰示が定位置よりも、ややライト線寄りに移動する。
「外野手4人体制」となった。
左バッターの森は、前日の同カードで5打数4安打と爆発し、4打点を稼いでいる。打撃絶好調の森をどう封じ込めるかが重要な鍵だった。そこで編み出したのが、外野手を4人にする守備シフトだ。
「4人目の外野手」を三塁手に決めた理由だが、左バッター・森の打球は、三塁手が処理しなければならないエリアにほとんど飛んで行かないというデータによるものだった。
森はこのシフトに戸惑ったのか、3打席連続で快音ナシ。日本ハム守備陣は森の打席が終わると、守備位置を通常通りに戻していた。
ヒラメキで変則的なシフトを敷いたのではない。日本ハムはデータをきちんと解析しているのだ。
「開幕カードのオリックス戦でも変則シフトが見られました。オリックスの4番・吉田尚が打席に立った際、三塁手を一塁手と二塁手の間のやや後方に守らせ、外野手3人を全員、左寄りにしました」(前出・同)
森に対してもそうだったが、全打席で守備位置を変更させたわけではない。“勝負どころ”と判断したとき、「変則シフト」に変えていた。
特定の強打者に対し、守備位置を大きく変えるのは珍しいことではない。
古くは王貞治ソフトバンク会長が現役だったころ、対戦チームはその打席ごとに守備位置を右側(ライト側)に大きく寄せていた。メジャーリーグでも、大谷翔平に対して似たような守備シフトが敷かれていた。
しかし、今季“披露”された日本ハムのシフトは「強打者に対応する」という要素よりも、「データ解析が進んでいること」を強調しているような雰囲気だった。オリックス・吉田尚、埼玉西武・森も強打者だが、野手を増やした場所が異なる。吉田尚のときは一、二塁間、森の場合は右方向の外野だ。
日本ハムはチームの戦力を分析する“システムソフト”も導入している。BOS(ベースボール・オペレーション・システム)なるもので、今では他球団も同様、もしくは類似したシステムを取り入れたが、日本で最初にそれを持ち込んだのは日本ハムだ。
「BOSを簡単に説明すると、全選手の成績、年俸、年齢を打ち込み、レギュラー、控え、育成、戦力外の4つに分けます。レギュラー選手でも年俸分の働きをしていないと評価されるときもある。日本ハムがFA権を行使した選手を引き留めないのは、そのためです」(球界関係者)
今回の変則守備で、日本ハムサイドが口にしていたのは「アナリスト」。対戦チームの情報を収集することはどのチームでもやっている。それを分析し、具体的な戦略を提供するのがアナリストの仕事だ。データ分析を専門に行うスタッフは12球団全てにいる。
「12球団にはスコアラーがいて、そのスコアラーが対戦チームの試合に乗り込んで、各選手の好不調、バッテリーの配球傾向をまとめています」(前出・同)
メジャーリーグでは対戦チームの情報を収集する者と、分析する者が異なることも多い。より専門的な分析を行うため、守備位置の全てに担当アナリストを置くチームもある。
「日本のスコアラーは基本的に野球経験者です。引退した選手をスコアラーにするケースも多い。バレンタイン監督の時代の千葉ロッテが一時期、アナリストを抱えていましたが」(スポーツ紙記者)
メジャーリーグでは野球経験者でない者も、アナリストとして活躍している。
今回、日本ハムがどれだけの人数を確保したのかは明かされていないが、データ解析と具体的な戦略を提供する専門アナリストを抱えたようだ。アナリストの存在が日本のペナントレースにどんな影響をもたらすか、見物である。
(スポーツライター・飯山満)