「今度は出たい。長嶋さん、王さんに言われたら、ぜひ出たい」。松井はWBC出場に意欲を燃やしていた。34歳の松井にとって、日の丸を背負ってプレーするのは、今回が最後のチャンスになるかもしれないという思いもあったようだ。しかし、今度は「長期間故障者リスト(DL)入りした選手は球団側の了承がなければ、出場できない」というWBCの規定の壁に泣かされた。
「ヒザのリハビリが最優先だから、WBC出場は許可できない」とヤンキースがドクターストップをかけたために、松井は身動きできなくなってしまったのだ。「ケガだから、松井は無理だよ。仕方ないよね」。コミッショナー特別顧問、日本代表監督相談役のソフトバンク・王球団会長は、同情したが、松井とWBCはどこまでも相性が悪かった。イチローがWBC長者なら、松井はWBC疫病神に取り憑かれたようなものだろう。
「このままでは松井は契約切れでヤンキースからトレードに出されてしまうのではないか」という観測が日米球界で強まっている。が、絶体絶命の危機に追い込まれている松井に対する熱烈声援も高まっている。「松井は本当にいいヤツだから、もう一度花を咲かせてほしい」という、球界OB、関係者の心からのエールだ。
「みなさんは松井君のファミリー、応援団ですからねえ。仲が良くていいですね」。まだ松井が独身時代に、メジャーリーグ担当の日本人記者にこう皮肉タップリの言葉を投げ付けたのは、イチローだった。日本人女子大生との不倫報道をされたことのあるイチローが、ガールフレンドと会食している松井を見ても書かずに温かく見守っている松井番記者たちに対して当てこすった強烈な皮肉だった。が、それは日ごろの行いの違いで、同じ目線でファン、マスコミを大事にする松井と、特定の親しい記者としか話をせずに、ファンに対しても見下ろし目線で接するイチロー。その差だろう。松井の逆襲を期待する球界OB、関係者が多いのもその人柄、人間性を知っているからだ。
「イチローはヒットでいいが、松井はそうはいかない。どうしてもホームランを期待されるから、難しい。日本人がメジャーリーグで40本打つのは無理だと思うよ」。こう断言していたのは、世界の王だ。それでもあえてメジャー挑戦して、名門ヤンキースの4番を打つ松井だから、奇跡的な巻き返しを期待したくなる。
イチローvs松井の最終決着を日本球界で求める声もある。「巨人・イチロー監督vs阪神・松井監督という、日本人メジャーリーガー同士の監督対決を見てみたい」というラブコールだ。愛着のある背番号55をあっさりルーキーの太田泰示(東海大相模)に与えるような巨人には戻らず、松井には高校時代からファンだった阪神の監督として日本球界に戻ってもらう。WBC日本ラウンド主催の縁で読売との急接近がウワサされるイチローは巨人監督で。実現すれば、まさに日本球界再生の究極のドリーム対決になる。