押し込んでも攻めきれない。亀田興の左にのけぞる場面が目立った。劣勢が発表された採点は開く一方だった。最終的に最大6点差がついた。
くぐってきた修羅場の数が挑戦者とは違うはずだった。新人王、日本王座、東洋太平洋王座を獲得し、世界王座は5度の防衛。栄光ばかりではなく、異国のリングで1回34秒で大の字になった日もあった。苦い経験もすべて糧にしてきた。
しかし、どんな名王者でもいつかは落城する日が来る。前回の防衛戦で格下を相手にダウンを喫して辛くも判定勝ちするなど、最近は急速に衰えが出てきたのも事実だ。17度防衛のポンサクレック(タイ)を破って王座に就いた2年前のような鋭さはなかった。
今後については「ゆっくり考える」と明言はしなかった。ただし35歳が限界かもしれない。初防衛戦で弟の大毅を下し、“悪役”だった亀田家に初黒星をつけて一躍、茶の間の人気者となった男は、兄の興毅に敵討ちを果たされてボクサー人生に幕を下ろすか。しかし今回の防衛戦では宮田陣営が2つのオプションをもつだけに、もう一度内藤にチャンスが来る可能性もあり、引退出来ない可能性も出てきた。
◎真弓さん「悔しすぎて涙も出ない」
内藤の妻、真弓さんは「悔しすぎて涙も出ない」と顔をしかめた。
今回は減量も順調で体調が良かったという。ただ「いつも試合前はやわらかい感じなのに、ピンと張っている感じだった」と、何か違う雰囲気に気付いていた。
夫の進退には「主人次第。やるんだったら応援したい」と話した。
◎亀田父・史郎「よくやった」
亀田3兄弟の父、史郎氏は、関係者に何度も制止を受けながらもリングサイドに近づいて大きな声援を送った。試合後は涙で目を真っ赤にして「よくやった」と、リングを下りた新王者とがっちり抱き合った。
2007年に内藤に敗れた次男の大毅は「うれしい。お兄ちゃんが2階級制覇してくれてよかった」と喜んだ。