夜中、お姫様は、先に布団に入って待っているんだ。背筋を伸ばして、まっすぐに上を向いて、目を閉じている。けど、寝てはいない。宮様が来るのを、じっと待っている。
夜がふけてくると、宮様がそっと障子を開けて部屋に入ってくる。ろうそくを床に置き、蚊帳の端を上げる。音を立てずに、すき間から体を中に忍び込ませる。お姫様は、宮様が部屋に入ってきた時から、ずっと気がついている。でも、姿勢を崩さず、目をつぶったまま待っている。まっすぐに天井を向いたまま。
布団に入ってからは、吉原君のことばかりを考えた。
昨日、吉原君とキスをした。私のはじめてのキスだった。けど、キスはどんなだったのか、よくわからなかった。また、してほしいな。今度は、手を握ってくれるかも。
でも、吉原君、なんだか様子がおかしかった。それに、吉原君は、私が吉原君のことを好きじゃないって誤解しているのかも。そんなことないのに。けど、吉原君、昨日はなんだか思い詰めた感じだった。どうしよう。次に会ったとき、何かこっちから声をかけてみようかな。けど、なんて言えばよいのだろう。
(このあいだは、ありがと)
これじゃ、キスしてもらったことをうれしがっているみたい。なんだか、いやだ。
(このあいだは、うれしかったよ)
もっと、へんだ。
それに、なんだか、またしてほしいって催促しているみたい。こんなこと、言えない。でも、またキスしてほしい。
けど、吉原君と、うまく話をすることができない。どうして、クラスの他の女の人みたいに、私は楽しそうにおしゃべりできないのだろう。みんな、何を考えながら、しゃべっているのだろう。わからない。
障子が音を立てている。風が出てきた。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)