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連載ラノベ 夢ごこち(33)

 金比羅さんの奥の道にあった社も、中はこんな感じなのかな。蚊帳に包まれた寝床が、オレンジの明かりに照らされて、お姫様の寝室に見える。金比羅さんの社には、魔除けの札がはられていた。でも、蚊帳にはついていない。誰か来ても、そのまま中に入ることができる。

 夜中、お姫様は、先に布団に入って待っているんだ。背筋を伸ばして、まっすぐに上を向いて、目を閉じている。けど、寝てはいない。宮様が来るのを、じっと待っている。

 夜がふけてくると、宮様がそっと障子を開けて部屋に入ってくる。ろうそくを床に置き、蚊帳の端を上げる。音を立てずに、すき間から体を中に忍び込ませる。お姫様は、宮様が部屋に入ってきた時から、ずっと気がついている。でも、姿勢を崩さず、目をつぶったまま待っている。まっすぐに天井を向いたまま。

 布団に入ってからは、吉原君のことばかりを考えた。

 昨日、吉原君とキスをした。私のはじめてのキスだった。けど、キスはどんなだったのか、よくわからなかった。また、してほしいな。今度は、手を握ってくれるかも。

 でも、吉原君、なんだか様子がおかしかった。それに、吉原君は、私が吉原君のことを好きじゃないって誤解しているのかも。そんなことないのに。けど、吉原君、昨日はなんだか思い詰めた感じだった。どうしよう。次に会ったとき、何かこっちから声をかけてみようかな。けど、なんて言えばよいのだろう。

 (このあいだは、ありがと)

 これじゃ、キスしてもらったことをうれしがっているみたい。なんだか、いやだ。

 (このあいだは、うれしかったよ)

 もっと、へんだ。

 それに、なんだか、またしてほしいって催促しているみたい。こんなこと、言えない。でも、またキスしてほしい。

 けど、吉原君と、うまく話をすることができない。どうして、クラスの他の女の人みたいに、私は楽しそうにおしゃべりできないのだろう。みんな、何を考えながら、しゃべっているのだろう。わからない。

 障子が音を立てている。風が出てきた。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)

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