「最初は“熱心に通ってくれるお客さんだな”ぐらいにしか思っていませんでした。それに身だしなみや言葉使いも、いたって普通でしたし」
その常連客は愛美のことを必ず指名し、熱心に店へ通い続けた。そんな常連客は彼女に会うと、いつも決まってプレゼントを渡してきたという。そのプレゼントの中身は、愛美がよく愛用していた化粧品や、好きな食べ物ばかりであった。
「どうして私の好きなものがわかるのだろう、とは思いました。私の趣向に関係した話を以前の接客で、話したのかなと」
日々、何人もの客と話しているため、会話の内容をすべて覚えてはいない愛美は、不信感を抱くことはなかった。しかし店の外で彼女は不可解な出来事に遭遇する。
「ある朝、外にゴミを出した後、一度家に戻って外へ出ると、さっき捨てたばかりの私のゴミだけがなくなっていたんです」
愛美は何かの間違いではないかと思ったが、別の日もまた目を離したスキに彼女のものだけが消えていた。そのため、気味が悪くなった愛美は、また別の日に部屋の窓からバレないよう自分のゴミ袋を観察する。すると数分後、ゴミを回収に来たのはあの常連客だったというのだ。
「あの客が現れた瞬間、背筋が凍りましたね」
常連客が愛美の好みをすべて知っていた理由が判明した。それは愛美がゴミとして捨てたレシートや、食べ物の袋などを隅々まで調べ、把握していたのだった。
「本当に気持ちが悪くて、もう出勤に行きたくないと思いました。お店には悪いと思ったのですが、無理を言ってすぐに辞めさせてもらいました」
幸い、愛美自身に危害が加えられることはなかったが、彼女は心に深い傷を負った。そして、店を変えたとしてもまた恐ろしい思いをするかもしれないと考え、夜の世界を棄てたのだ。現在は引越しを済ませ、都内でOLとして働いているという。
(文・佐々木栄蔵)