小沢氏の秘書逮捕で、自民党の一部からは「支持率低迷に悩む麻生内閣にとって、このタイミングを逃したらチャンスはない。早めに解散すべきだ」と衆議院の解散・総選挙を求める声が聞かれ始めた。
もっとも逆風が吹いているのは民主党ばかりではない。西松建設から献金、パーティー券購入をしてもらった自民党の大物議員もいるからだ。
石川2区の森喜朗元首相(71)もその1人だ。西松建設のОBを代表とした政治団体から2004年から6年の間に献金とパーティー券購入で計400万円が提供されていた。森氏側は西松側に返金を検討しているが、選挙となればマイナス材料になりかねない。
永田町のキングメーカーを気取る森氏に、民主党が放った刺客が田中美絵子氏(33)だ。
「河村たかし議員の元秘書で、すごい美人。派遣社員として苦労した経験もあって“庶民派”が売り。知名度はゼロだったが、徐々に顔が売れだした。世代交代を訴えて無党派層の票を取り込めば好勝負になるところまできている。小沢代表の後押しが強かっただけに献金事件がマイナスに働くと思われたが、森元首相も献金を受けていたことで、かえってプラスになりそう」(地元記者)
磐石と思われた元首相を、どうやら脅かす存在になってきたようだ。07年参院選で鞍替え当選した一川保夫参院議員の地盤を受け継いだ田中氏は、選挙区を精力的にローラー作戦。一川氏は直近2回の選挙で8万数千票を集めており、候補者擁立を見送った共産党や無党派層の票を取り込めば好勝負必至の戦いに持ち込んでいる。
さすがの元首相も危機感を感じたのか、これまで以上のお国入り。小集会にも足を運んでいるという。
民主党楽勝ムードが一変した巨額献金事件。それでも苦戦を強いられそうな大物議員は、献金事件に名前が挙がるセンセイばかりではない。
「自民も民主もダメとなれば、政治不信がさらに広がる。こうなるとベテラン議員より、清潔なイメージが強い女性候補に無党派層の票が流れる可能性がある」(政界ウオッチャー)
愛媛1区の塩崎恭久・元官房長官(58)も、民主党候補の永江孝子氏(48)に猛追されている。永江氏は元南海放送のアナウンサー。報道、情報番組のキャスターとして活躍し、知名度は抜群だ。2児の母で、親しみやすいキャラクターの持ち主でもある。
「永江氏は愛媛では知らない人がいないほど有名な女子アナだった。辻立ち1000回を目指して、街頭演説を繰り返しています。新鮮味も勢いもある。塩崎氏は麻生首相批判で人気を盛り返していますが、永江氏のリードはまだ変わらない。塩崎氏は巻き返しに必死です」(地元紙記者)
10期目の当選を狙う長崎2区の久間章生・元防衛相(68)も、かつてない逆風にあえいでいる。一昨年の「原爆しょうがない」発言がマイナスに働いているからだ。
こちらの刺客も“民主女子”の福田衣里子氏(28)。薬害C型肝炎訴訟の九州原告代表だ。
「薬害問題に取り組んできただけに、官僚批判や命の大切さを訴える演説に説得力がある。涙を流す中年女性もいるほどです。麻生首相の解散先送りのおかげで、低かった知名度がかなり上がってきた。久間氏も危機感があるのか、週末は必ずといっていいほど地元入りしている」(政界ウオッチャー)
巨額献金事件でにわかに吹き出した早期解散ムード。大物議員の危機情報も飛び交い始めた注目選挙区では、与野党ともに水面下で激しい選挙戦が、すでにスタートしている。