<Q>
プロ野球の乱闘で選手に怪我をさせてしまった。相手は引退に追い込まれるほどの重傷。傷害罪にはならないの?
野球の試合中の出来事だから、たとえ乱闘でも試合の一部!? ということは刑事事件に発展する余地はないのかな…。そこで、スポーツのルールには一家言持つ愛甲恵介弁護士に聞いてみた。
<A>
相手に重傷を負わせてしまった場合、傷害罪が成立する可能性が高いといえます。
誰かを殴ったり蹴ったりして怪我させてしまった場合、傷害罪(刑法204条)が成立するのが原則です。もっとも、事の是非は別として乱闘はプロ野球の世界で暗黙のうちに容認されている行為ですから、暴力行為が乱闘の度を越したひどいものではなく、かつ、結果も重大でなければ、刑事事件までは発展しないのが通常です。
◆たとえ試合中であろうと傷害罪が成立する可能性が高い
傷害罪は本人の告訴が不要の「非親告罪」ですから、たとえ被害届が出されていなくても立件・起訴できるのですが、捜査機関も上記の理由から事件として扱うことには慎重になっているというのが実態だと思われます。
しかし、バットやボールなどの凶器を用いた場合は、行為の相当性を著しく逸脱するといえますし、相手が重傷を負ってしまった場合は、結果が重大であるといえることから、捜査機関も動かざるを得ないでしょう。
また、怪我をさせた相手が選手か審判かで処分に多少の違いがあるように思われます。背景には、鍛え上げられた肉体を持つ選手とそうではない審判の身体的な差異があるといえます。
◆98年ガルベス乱闘騒動…あのとき投げたボールが球審に当たっていたら
1998年7月31日の巨人・阪神戦(甲子園)で巨人の投手ガルベスが橘高球審目掛けてボールを投げつけるという乱闘事件がありました。もしあのときガルベスが投じた渾身のボールが橘高球審を直撃していたら…おそらく刑事事件に発展していたでしょう。頭に血がのぼっても節度ある乱闘をお願いしたいものです。
【弁護士プロフィール】
愛甲恵介(あいこう・けいすけ)弁護士
明治大学法科大学院卒業。司法修習第65期。東京弁護士会所属。行政書士、宅地建物取引主任者の資格も持つ。趣味は野球観戦で、球場で声援を送るだけにとどまらず、セイバーメトリクスという手法を用いて選手の成績を分析している。また特技は少林寺拳法で、キックで木製バットを折ることもできる。
所属事務所:弁護士法人アディーレ法律事務所 http://www.adire-bengo.jp/