◆プロ野球で来季から、試合中にベンチ前で投球練習(キャッチボール)をすることが禁止!
<Q>野球規則【三・一七】に「両チームのプレーヤー及び控えのプレーヤーは、実際に競技にたずさわっているか、競技に出る準備をしているか、あるいは一塁または三塁のベースコーチに出ている場合を除いて、そのチームのベンチに入っていなければならない」とありますが、この「競技に出る準備をしているか」をどう解釈するか(これまでどう解釈されてきたか)を、弁護士の先生の見解を教えてください。
内野フェンス前やベンチ前でいつもやっている「マエケン体操」。好不調のバロメーターでもあっただけに、禁止されると投球不調の原因にもなりかねない。そこで、スポーツ・格闘技分野には一家言ある愛甲恵介弁護士に聞いてみた。
<A>法律家の用語で、条文の解釈方法として、文字のそのままの意味に従って解釈することを「文理解釈」といいます。
ベンチ前のキャッチボールは、普通に考えれば競技に出る準備に他なりませんから、文言をそのまま解釈すれば、キャッチボールは禁止されていない、といえそうです。しかし、「競技に出る準備をしている」とは次のバッターのことを指す、というのがNPB(日本野球機構)の共通見解のようです(野球規則3・17 注1でネクストバッタースボックスの存在が予定されていることが解釈の根拠になります)。
◆条文の解釈の違いでどちらにもとれる玉虫色の規則。マエケンは意義を唱えてもいいのでは。
もっとも、条文の解釈方法として、意味を広くとらえる「拡張解釈」というものがあります。例えば「猫の飼育を禁止する」という場合、同じネコ科のライオンも飼育禁止であろうと考える手法です。ネクストバッタースボックスで次打者が素振りをするのがOKなら、次のイニングの登板に備えた投手のキャッチボールもOKだろう、と考える余地は十分にありそうです。
◆「競技に出る準備をしている」ではなくはっきり「次打者」と規則改正すべき。
いずれにせよこのような解釈の争いの余地を残すような文言は、法律の世界では好ましくないとされます。正確を期すのであれば「競技に出る準備をしている」ではなくはっきり「次打者」と改正すべきではないでしょうか。
余談になりますが、2009年4月28日の巨人−広島戦でオビスポがキャッチボールを3球暴投して、審判からベンチに下がるよう命令されたことがありました。オビスポの制球力の無さを物語るエピソードですが、こんな光景をもう拝むことが出来ないと思うと一抹の寂しさを感じますね。
NPB(日本プロ野球機構)もルール順守を提唱するのであれば、明確な規則が必要なのではないだろうか。
【弁護士プロフィール】
愛甲恵介(あいこう・けいすけ)弁護士
明治大学法科大学院卒業。司法修習第65期。東京弁護士会所属。行政書士、宅地建物取引主任者の資格も持つ。趣味は野球観戦で、球場で声援を送るだけにとどまらず、セイバーメトリクスという手法を用いて選手の成績を分析している。また特技は少林寺拳法で、キックで木製バットを折ることもできる。
所属事務所:弁護士法人アディーレ法律事務所 http://www.adire.jp/