監督/ニコラス・ペッシェ
出演/ミア・ワシコウスカ、クリストファー・アボットほか
“世界の村上”といえば、毎回のようにノーベル文学賞の候補となる村上春樹なのだろうが、村上龍だって世界で通用する作家。今回の原作は、殺人衝動男と対峙する自殺願望SM嬢という特異な設定。村上龍とSM嬢の題材といえば、原作を自ら監督もした『トパーズ』(92年)もあるくらいで、かなりの“赤い糸”で結ばれている。この設定が、海外の映画人を引き付けるのか、製作はアメリカ、監督は新鋭ニコラス・ペッシェ、設定も東京からニューヨークに移して、外国人俳優が演じる“洋画仕様”となっっている。
無機質な高層マンションに住むリード(クリストファー・アボット)は、内なる殺人衝動が押さえ切れなくなり、家族に手をかけようとするが思いとどまり、それならとSM嬢を狙うことにする。そして現れたジャッキー(ミア・ワシコウスカ)だが、一筋縄ではいかなかった…。
ヒロインのミア・ワシコウスカは『アリス・イン・ワンダーランド』(10年)のアリス役が有名だが、ちょっと個性的なパツキン女優。こういう風変わりなSM嬢は意外と似合うので、なるほど。白いピンヒールに毛皮をまとい、アンダーウエアは黒づくめでホテルの一室に入っていく姿は堂に入ったもの。男がさあこれから凶行に及ぼうか、と思っている矢先に、一寸待ってとシャワー室に入るとしばらく出て来ない…。ついに男が苛立って扉を開けると、何と刃物を自分の足に突き立て自傷行為の真っ最中で血だらけ! 殺そうとした相手が、自ら刃物で…なんて、そんな意表をつく先制攻撃に、男も、ボクもド肝を抜かれる。
ボンデージ風の黒い下着が淫らだし、久々に見た気がするガーターベルトがエロいの何の。時にはエキセントリックに、時にはロマンチックにと変幻自在の表情と言動で、この殺人願望男を翻弄し、さらには支配してゆくのだから、かなりのツワモノ。アイスピックで肌をなぞるシーンが痛そうだが、自らの乳首にピアスするシーンは、もっと痛そう。さすがに画面と顔は連動していないので、ミア本人ではなく、吹き替えだろうけど…。
衝撃シーンの連続だが、どこか現実感が希薄で浮世離れしている。すべては、本当は“善良”な男の妄想にすぎないのか? 彼女もまたファイクな世界の産物なのか? まあSMプレイ自体に妄想ゲーム的な側面はあるし。SMには造詣の深い村上龍ワールド全開の異色作であった。“痛い”の好きな人は、こっそりドウゾ!
《映画評論家・秋本鉄次》